今年に入ってから、地方からの仕事の依頼が増え出した。
飛行機や新幹線での移動は有難い限りだが、ごく稀に深夜バスでの移動を強いられる場面もある。
昔、北海道ローカルから全国区にまで登り詰めた人気番組『…どぅでしょう』を思い起こされる瞬間でもある。
長時間のバスの旅。
あの番組では巧い具合に編集がなされ、面白おかしく視聴者に提供しているものだが。
そのノリで素人が乗り込んだ日には痛い目に遭う…。
新宿バスタ発‐博多行き。
KING of 深夜バス『博多号』
風格すら漂う佇まいに己の旅の士気が高まる。
これから帰省なのか、それとも出張なのか?
多くの乗客が乗り込む。
車内を見渡せば、皆無表情。
これから始まる大凡13時間の旅。
ある種の覚悟を決めているのを悟られまいと、無表情を決め込んでいるとしか俺には思えない。
定刻通り出発。
車内での注意事項がアナウンスされた後、間髪入れずに車内灯の灯が落とされる。
テレビで見たまんまの光景…。
強ち嘘ではなかった事を実感させられる。
バスはひたすら中央道を走る。
強烈に響くエンジン音と風を切る音。
寝るに寝られず、ただただ沈黙の時間だけが過ぎてゆく。
身体を伸ばしたくても伸ばせない。
スマホを開こうものなら他人様の迷惑になる。
マサに、八方塞がりとはこの事かと。
そして、あの密室特有の湿気と、監禁されたような感覚。
それは、ある種の敗北感すら思わせる。
例えるなら、これは鉄板!間違いない!と、豪語し、絶対的な自信を持ち、そのレースを信頼し購入して投じた車券が自身の推理不足により、一瞬にして紙屑に変わった時の、何処にも当たり様のない虚しさ満点の感覚に似ている。
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