遠山競輪研究所
チャレンジレース分析(その1) -- 特徴調査( 2021/10/29 )
チャレンジレースはランク付け最下位のA級3班選手のレースですが、力が落ちてきた高齢選手が多く在籍するとともに、デビューしたての新人選手も混在し、S級戦やA12班戦と違った面白さがあるレースです。
コロナ禍によりA12班戦、およびS級のF1戦でも7車立てレースとなりましたが、それでもクラスによるレースの違いは大きいようです。
他クラスとの比較、およびコロナ禍影響前との比較を行ないながら、現在のチャレンジレースの特徴を調査しました。
今回はチャレンジレース分析の1回目として、調査結果の紹介を行なっていきます。
以下目次項目
◆ 調査対象レース
メインターゲットは直近1年間のチャレンジレースですが、比較対象として他クラスのデータも併記しています。
以下の調査結果で使用している図および表中の「クラス名」の対象レースは次のとおりです。
調査対象レース
図および表中の クラス名 | 調査対象レース | 該当 レース数 | ||
---|---|---|---|---|
クラス | 車立て | 期間 | ||
S級戦・7車立 | S級戦 | 5・6・7車立 | 直近1年(2020/7~2021/6) | 5,283 個 |
A12班・7車立 | A12班戦 | 〃 | 〃 | 10,959 個 |
チャレ・7車立 | チャレンジ戦 | 〃 | 〃 | 4,980 個 |
チャレ(コロナ前) | 〃 | 〃 | コロナ禍前1年(2019/1~2019/12) | 5,335 個 |
- ※チャレンジ戦において、ルーキーシリーズ(新人戦)は集計の対象外としています。
- ※「1. 的中車券の配当額および人気順比率」では、配当額等を平等比較するために、7車立てのレースだけを集計対象としています。
- ※「2. 決まり手の比較」では、決まり手比率を平等比較するために、400バンクのレースだけを集計対象としています。
- ※当日欠場があったレースは集計の対象外としています。
1. 的中車券の配当額および人気順比率
1-1. 的中車券の配当額比率
2車単・2車複・3連単・3連複車券の配当額について、男子7車立ての他クラスとの比較、およびコロナ禍影響前との比較を行ないました。
比較が分かりやすい箱ヒゲ図で示します。
図1-1 ~ 図1-3 で示している数値については「箱ヒゲ図の数値説明」を参照ください。
- ※ 図中の配当平均値は通常の平均配当のことです。
(対数化したデータの平均値ではありません。)
上の図1-1 ~ 図1-4 から分かるように、同じ7車立てでも2車単・2車複・3連単・3連複の全ての車券で 配当額の中央値および平均値は「S級戦」「A12班戦」の順に高く、「チャレンジ戦」が最も低くなっています。
またコロナ禍前と比較すると、コロナ禍後のチャレンジ戦は2車単・2車複・3連単・3連複の全てで低配当化しています[ 1 ]。
1-2. 的中車券の人気順比率
次に的中車券の人気順比率を比較しました。
「S級戦」や「A12班戦」に比べて「チャレンジ戦」では上位人気の車券で決着することが圧倒的に多いようです。
2車単では全体の 32.4%のレースが1番人気で決着していますし、3番人気以内となると6割近く(58.6%)になります。
2車複では 43.3%のレースが1番人気で決着しているというのですから驚きです。チャレンジ戦が他クラスより配当額が低いというのも当然でしょう。
またコロナ禍前(2019年の1年間)よりコロナ禍後の方が、より上位人気で決着する比率が高くなっています。
2. 決まり手の比較
1着および2着の決まり手を400バンクに限定して集計しました。
同項目の調査は、2020年10月の「S級戦・7車立てレースの特徴を調べてみた」の分析でも行なっています。調査の対象期間が違うので若干の数値の違いはあるのですが、ほぼ同様の結果でした。
1着決まり手において、S級戦・A12班戦に比べてチャレンジ戦では「逃げ」がとても多く、その分「差し」が少なくなります。
2着決まり手では、チャレンジ戦では「マーク」の比率が他クラスより若干多くなっていますが、1着の決まり手ほどクラス間の差はないようです。
またコロナ禍前と比較すると、コロナ禍後のチャレンジ戦は1着の決まり手の「捲り」が減少しているようです。2着の決まり手で差はありませんでした[ 2 ]。
3. 競り発生率等、種々項目のデータ比較
次の項目のデータを調査し、他クラスとの比較、およびコロナ禍前との比較を行なった結果です。
- 競り発生率= 競り発生レース数 ÷ 調査レース数(%)
- 飛び付き発生率= 飛び付き発生レース数 ÷ 調査レース数(%)
- 落車棄権発生率= 落車棄権発生レース数 ÷ 調査レース数(%)
- 失格発生率= 失格発生レース数 ÷ 調査レース数(%)
- 脚力決着比率= G指数上位2人でワンツー決着したレース数 ÷ 調査レース数(%)
- スジ決着比率= 「並び予想」上のスジ(前後に並んだ2人)でワンツー決着したレース数 ÷ 調査レース数(%)
表3-1. 競り発生率等・種々項目のデータ比較(クラス間およびコロナ禍前後で比較)
項目 | クラス比較 | コロナ禍前 チャレンジ戦 | クラスの 比較順位 | コロナ禍の 影響の有無[ 3 ] | ||
---|---|---|---|---|---|---|
S級戦・7車立て | A12班・7車立て | チャレ・7車立て | ||||
競り発生率 | 3.0 % | 2.1 % | 3.2 % | 3.0 % | チャ > S級 > A12 | 有意差なし |
飛び付き発生率 | 13.0 % | 12.1 % | 14.8 % | 13.5 % | チャ > S級 > A12 | 有意差なし |
落車棄権発生率 | 4.5 % | 3.1 % | 2.8 % | 2.6 % | S級 > A12 > チャ | 有意差なし |
失格発生率 | 3.6 % | 2.7 % | 3.6 % | 3.1 % | S級 > チャ > A12 | 有意差なし |
脚力決着比率 | 24.3 % | 26.5 % | 31.4 % | 29.1 % | チャ > A12 > S級 | コロナ禍で増加 |
スジ決着比率 | 53.6 % | 53.4 % | 52.5 % | 48.7 % | S級 > A12 > チャ | コロナ禍で増加 |
競り発生率・飛び付き発生率はチャレンジ戦が最も高く、続いてS級戦、A12班戦の順番となります。
落車棄権発生率はS級戦が最も高く、チャレンジは最も低くなります。「チャレンジ戦では競り・飛び付きが多く発生するが、落車するほどの激しい競り・飛び付きにはならない」ということでしょうか?
失格発生率もS級戦が最も高く、チャレンジ戦もそれに次ぐ高さです。
チャレンジ戦は脚力上位の選手でワンツー決着する比率が最も高く、逆にスジでワンツー決着する比率は最も低くなります。それでも、前述したようにチャレンジ戦では上位人気で決着する比率が高いのですから、オッズでも「スジより脚力」のほうが重視されているようです。
つまり、「チャレンジ戦では出走選手間の脚力差が大きいレースが多い」と言えるでしょう。
チャレンジ戦のコロナ禍影響前との比較においては、「脚力決着比率」と「スジ決着比率」でコロナ禍後の比率の増加が見られます。順当な結果で収まることが若干増えたということですから、選手があまり無理をしなくなったということでしょうか?
他の項目では数値の変動は若干あるのですが、統計的には「有意な差がある」とはみなされませんでした[ 3 ]。
4. 選手構成の比較
出走選手の「年齢」「選手歴」「脚質」の比率について調査し、他クラスとの比較を行なった結果です。
なおレースの実態に近い数値を得るために、各クラスに在籍する選手数の比率ではなく、直近1年のレースに出走したメンバーの延べ人数比で調査しました。
「年齢構成」のグラフを見ると、チャレンジ戦は45歳以上のベテランが全体の4割以上を占め、他クラスに比べて大変多くなっています。
また24歳以下の比率も多くなりますが、これは「選手歴比率」グラフでデビュー1年未満の新人が他クラスに比べて圧倒的に多いことが、同等の特徴を本質的に表わしています。新人は全員がチャレンジ戦デビューなので当然の結果ですが...。
「脚質比率」のグラフからは、チャレンジ戦は「逃」「両」の自力型が他クラスに比べて相対的に少なく、「追」が多くなっているのが分かります。チャレンジ戦で多いベテラン選手は「追」の比率が圧倒的に高いわけですから、これも当たり前のことです。
以上からメンバー構成でのチャレンジ戦の特徴は、「デビュー1年未満の新人と、概ね45歳以上のベテラン選手の比率が非常に高い」と言うことでしょう。
ちなみに、直近1年のチャレンジ戦で、1レース中の新人選手数を調べた結果は次のとおりです。
チャレンジ戦1レース中の新人数(直近1年 4,980レース)
新人不在 | 新人 1人 | 新人 2人 | 新人 3人以上 | |
---|---|---|---|---|
レース数 比率 | 2,367 個 47.5 % | 2,007 個 40.3 % | 424個 8.5 % | 182 個 3.7 % |
やはり新人選手が出走するレースが過半数を占めます。チャレンジレースを攻略するには新人選手に注目することが必然のようです。
次回は新人選手に注目してチャレンジレースの車券戦術を検討します。
脚注
- 1. ^ コロナ禍前とコロナ禍後の、配当額の有意差について
チャレンジレースのコロナ禍前とコロナ禍後については、箱ヒゲ図の配当データ(中央値等)の差が微妙であり、本当に差があるのか否かについては統計的検定で判断を行ないました。
9車立てレースの3連単や2車単の配当分布は、対数値を取ると正規分布に近くなるので、通常は「t 検定」で有意差の有無が判断できるのですが、 配当額が低い7車立てレースの配当(特に2車複や3連複)だと、計算上100円以下の配当は元返しとなるのがネックとなって正規分布が崩れてしまいます。 実際に「シャピロ・ウィルク検定」および「コルモゴロフ・スミルノフ検定」を行うと正規性があると言えませんでした。
よって、今回は「マンホイットニーのU検定」で中央値に差があることを確認しました。
結果:チャレンジ戦の2車単・2車複・3連単・3連複のすべてで、コロナ禍前とコロナ禍後で配当額に有意的な差(有意水準5%)がある。 - 2. ^ コロナ禍前とコロナ禍後の、決まり手の有意差について
「1着決まり手」および「2着決まり手」それぞれで、有意水準5%でカイ二乗検定を行なうと、「1着決まり手」では有意的な差があり(コロナ禍後は捲りが減少)、 「2着決まり手」では有意的な差ありませんでした。 - 3. ^ 競り発生率・飛び付き発生率・落車発生率・失格発生率・脚力決着率・スジ決着率のコロナ禍影響比較
有意水準5%のカイ二乗検定でコロナ禍影響の有無を判断しました。結果は表3-1. に記載のとおりです。