暇を持て余した六十路の男二人が、昼飯どき過ぎの空いているファミレスで、競輪の中継を見ている。横画面にした携帯電話に見入る爺さん二人の画は周りの客にはどう映るのだろう。ま、きっと誰も眼中になかろう。
先頭集団が四角をまわる。番手の選手は早くも前との車間を切っている。「七番は内を締める」――ほぼ同時につぶやいた二人だが、買っている車券は違った。一方は三人の筋車券。他方は三着そっぽの車券。庇いに庇った番手は前を抜けず、内締めに専念する三番手を別線ハコ選手が外から楽に抜き去った。
「そりゃ内を締めるのは三番手の仕事だけど、四着じゃこちらは一銭にもなりゃしない」
「その通りよ。ただ三番手はけっこう難しい。とくに番手が前を過剰に庇うと締めているうちに踏み場を失う」
「車券、当たってるじゃない」
「うん、三番手が内を締めすぎ流れこめない。これはトレンド」
「…………」
一時間経過。
まだ同じファミレスで粘っている二人。
佐世保十レースの車券を買っている。
吉田拓矢で固そうだけど、四ヶ月ぶりの実戦だ。
「吉田は、そうか、オールスターで眞杉を引っぱったやつで失格食って(斡旋が)止まったんだ」
「ああ、暴走失格」
「ははは。ま、軽く捲っちゃうだろう。だけどレース勘は心配、どうしても」
「中庸をとって裏目?」
「だな。二車単一本にするかい」
珍しく意見は一致を見た。二人とも昭和の競輪で育っているから、二車単一本が三度の飯より好きなのだ。
長居はみっともないと、二人とも申しわけ程度に生ビールとノンアルコール・ビールを追加した。昭和親爺はつまんない見栄を張る。
ビールが運ばれ一寸すると十レースが始まった。
「簡単に捲っちゃうな」
「こりゃ差すだろう」
「ほれ、鈴木」
「あ、抜いた」
三着は抜けたし二車単正解だと、ともに中間色のジャンパーを着た男二人は満足げだ。
「三百三十円」
「やっぱり安いな。ま、一緒に当たったんだからいいじゃないの」
「枠単は四百三十円だって。せこいな」
「……百円も違うの?」
さあ、これからどうしよう。
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