♪I’m so tired……と歌い出すジョンの声は「ほんと疲れたわぁ――」と響く。
倣って口に出したいほど昨朝は布団から出るのが億劫だった。別にずうっと寝てたって構わない身なのだが、寝るのも体力が必要なので起きるしかない。
軀が怠い。午前中を無為に過ごす。軀が重い。何もする気がしない。ならば何もしなければいいとも想うのだが人間そういうわけにも行かない。髭を剃るのも面倒臭い。マスクするのだから構わない気もするがやはり髭は剃らなきゃ、川口オートに行くのだから――。
レース場の近くを流れる川で年配の男性二人と子供が楽しそうに釣りをしていて、そのむこうの防音壁の上からエンジン音が聞こえると、今までの軽い鬱が見事に晴れる。まだまだ、これから――。我ながら「簡単な男」だなぁと笑ってしまう。引き摺る様だった歩様が少し早足になった。
◎の一着失格のせいか客達の会話の音量がちょっとだけ上がっている。
四五人のグループから一人女性が抜け、どうやらパチンコに種目替えするらしい。ガタイのよい男が「柳の下にドジョウは居ないぜ……」と言葉足らずのアドバイスを送り、一間置いて「――ウナギはいるけどな」とでかい声で言い、ハッハッハッハと自分で自分の冗句を笑った。(たまに見かけるこの人、良いなぁ――)。
本日の川口は一着権利の準決八個という珍しい企画。その名も「バトル8」だ。主力が八分散するのだから、頭鉄板とか◎○から三着探しという性格の番組が多くなるのは、素人の私でもわかる。「二車単百幾らから三着を絞る作業。」「本命から二着三着に三人ではガミ、誰を切ってどっちを厚く買うのか。」等々、本場でオッズと睨めっこしながら固めの車券を悩み選び買うギャンブルは最高に楽しいが、その分疲れもする。揚げ竹輪を食べ珈琲を飲み、フランクフルト・ソーセージを囓り又珈琲を飲む。篠崎実はもう七十超えてるンだ。と驚き、「ゴッド・ブレス」の車名に又驚き、二着三着でちょっとだけ買ったが、零ハンデを抜けず了いだった。
佐藤・佐藤で這入った第七競走の次からだから、八・九・十・十一・十二。ない頭を絞って闘ったのはたかだか五個レースなのに疲労困憊。日暮れた帰路は脚が棒のように重かった。しかし朝とは異なる、心地良い疲れである――と記したいところだが、敗残の夕はやはりI’m so tired……纏わり付く鬱屈……二十代の時から変わらない。
四日市記念は佐藤慎太郎の優勝。「三度(今回は二度佐藤が平原を差している)を嫌った」俺の車券は「初動捜査」の段階でアウトだった。坂口晃輔の三着かぁ……。準決は彼を外し痛い目を見ている。普段よく買う選手なのに前橋での落車の影響が気になり全日軽視して了ったが、気あいで走るタイプの地元記念はやっぱり違うのだと痛感した次第である。
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