昔の小田原競輪場とは所々そりゃ変わっているに違いないが、テレビ中継の画からは割とはっきり、ありし日の埃っぽいようなスタンドの雰囲気が伝わってくる。
準決一発目――。大森慶一と河野通孝の一番人気(二車単)を持っているお客さんは、さぞかし痺れたことだろう。内を潜り襲いかかる曲者その一・稲吉悠大、追従する曲者その二・松尾勇吾との競りを凌いでのズブズブは価値あるズブズブであった。挑んだ松尾と稲吉は八九着に散り、受けた大森と河野が一二着の競輪が面白くないはずはない。
二発目――。久田裕也。内田裕也。一字違いだからよく買っているのだけど、ここは手が出なかった。ふっと在りし日の内田裕也の政見放送を思い出した。東京都知事選に立候補してNHKで流された映像、ジョン・レノンの『Power To The People』をアカペラで、手前のテーブルを叩いてリズムをとりながら歌ったやつを。あのときの内田裕也かっこよかったなあ。
最後の準決――。たまたま見た堤洋の弥彦の準優勝がいつになくにシビアだったからちょっとだけ買った。本線三番手、しかも何も可も突っ張ってしまいそうな北井佑季-松坂洋平の三番手だ。もしかして内が空いたりして……助平な車券を買って見ていた。まさに「全ツッパ」を体現するような、いやそれ以上だ、ここまでガンガンつっぱって大丈夫なのかしら? と思わせるくらいの全ツッパだった。松坂が車間を空ける。それはいいけどおれの堤は? まだ余力あるんじゃないの。松坂が車間を詰める。四角手前。堤ぃー思いっきり踏んでちょうだい。声にだそうと思った途端にガッチャーンと音がした。
【小田原GⅢ決勝】久田裕也には誰もマークしないと言う。関東は宿口陽一を先頭にまとまると言う。柴崎淳も単騎。山本伸一も単騎。大森慶一だけが北井佑季-大塚玲の後ろを固めると明言した。最初から大塚のヨコにいく選手などいやしない。みんな混戦待ちだ。一番車の北井が正攻法として誰か本気で切りに行けるのかしら? また全ツッパ? おおいにありだろう。北井-大塚-大森で二周半逃げた時、大塚は抜けるだろうか。二次予選はマークいっぱいだった。逆に大森は初日、北井-松坂洋平の三番手から中割り気味にスッと伸びている。その大森、十月十五日はめでたい四十二才の誕生日らしい。そういえば準決で穴をあけた久田裕也も二十四才の誕生日に自ら放った祝砲だった。
⑦①④を買います。
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