工事中の川口オートレース場には何回も行っているが、大型の電光掲示板やオーロラビジョンが消された川口は初めてだった。立ち入り禁止の古いスタンドを囲む鉄製の「アコーディオン・カーテン」もどきに貼られた川口所属の選手の写真は見慣れているけど、これを見るたび、川口駅近くの商店街にある似た景をおもいだす。数店舗が閉鎖された跡地に大型マンションが建設中らしく、「工事中」を覆うようにやっぱり鉄の塀が設けられているのだが、そこには川口市の歴史を語る資料、懐かしい駅前の写真等々が掲示されているのだ。
初日(二十二日)の最終レース、永井大介――頭鉄板という感じの一本被りだ――から〇ハン三人を切って濃淡をつけて買ったら、結果は7-1-3、消した三人のうち二人が絡んだ。カチンときた。カチンときた理由もあるにはある。が、きっと素人のこじつけ、的はずれに違いあるまい。だから記さない。
失敗したのは八レース。試走に向かう各選手を女性の声が紹介する。「一号車、長谷川啓、川口、ハンデ〇。二号車……」、競輪は「一番〇〇選手以下七名、出走表記載のとおり、異常なく出走いたします……」と愛想に欠けるが、オートの場合は丁寧に全選手の名前をコールする。
何気なく聞いていた俺の耳に「フカヤヒカル、オオキヒカル」と心地よくひびいた。予想紙を見ると五番に深谷輝、六番に大木光、漢字表記は異なるが韻を踏まれちゃ買わねばなるまい。と閃きのように思った。あぁ、それなのに。試走タイムを聞きあっさり翻意してしまった。
――大木-深谷は買えんでしょうが。と言うなかれ。「名前の筋」くらいしか思い込めない俺にとっては、えらく悔しいエラーなのだ。♪まずしさに負けたぁ~いえ世間(試走)に負けた~。
帰り道、横断歩道をさえぎる無遠慮な車の運転手と目があい一瞬かっとなった。
むし暑さも手伝って足どりは重い。
サンダル履きに素足は開放感があるけど、気がついたら右足の内側の皮がむけていて、ちょっと痛い。
かっとするのも、すりむけるのも、生きてる証拠。声にださずにつぶやく馬鹿者ひとり。
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