左側から、H女史、T女史、小生、O君と並んで、競艇を観戦している。
二十代、二十代、六十代、五十代の男女が横並びに競艇を見ている。私以外の三人は、まァ競艇に詳しい。競艇が手の内にはいっている。競艇が好きだ。
私の頭ごしに脂っこい競艇俗語がとびかう。むろん聞き馴染んだものもあるけれども、正確に把握していないことばもたまに出、私は前後のことばから隙間の意味を探ろうとする。むかし、競輪場の予想屋氏の講釈を聞きながら、一生懸命わからない箇所をうめるべく頭を働かせていた状況に似ていなくもなく、顔には出さねど愉しい気分がおこる。
O君「あっ、五番遅れた」Hさん「あーあ、でも入れてくれない?」Tさん「何某さんはやさしいから。ほら。大丈夫」――私の漠とした記憶では臨場感に乏しい採録になってしまうので注釈しておくが、要は、推しの選手のピット離れが悪く、侵入コースがひとつ外になりかけたけど、あきらめずに主張したら、「何某さん」はそこまで強引ではなく、ひとが良かった、という会話が小気味よく交わされているわけだ。
スロットの達人が両隣にいる。はさまれた俺は目押しもできない。そんな状況が不思議と心地よい昨日(五月末日)戸田競艇場の半日であった。最後の二鞍はO君の「指定席」だという第一ターンマークの間近で観戦、帰り際には普段まず足を止めることもない、勝利者インタビューまで見てしまった。
今日(六月一日)から前橋が始まるけど、目覚めの気分は、遠くの前橋GⅢ(周年記念)より近くの戸田GⅠ(周年記念)かしら。
附記。私が十代二十代の頃、中央線の車窓から目だつ質屋の看板が見え、その宣伝文句は「遠くの親類より近くのオークラ」だった。
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