もう二十年近く前になるか。
ベテランのある選手に俺はひそかに「独り任侠道」というあだ名をつけ親しんだ。といっても関東近県の競輪場で選手と記者として交わるだけのことなのだが――。
すでにA級下位かB級だった某だが、己の競輪道に厳しい男だった。本命人気になることもすくなく、地味に三番手まわりとかいう競走ばかりで(まだ三連単などない時代だ)ファンの注目を集めることもあまりなかったが、時折頑として譲らず競ったり、意外にも四番手まで折り合ったり——―。その一々に彼なりの理由があるのだが、それを教えてもらうのが俺は楽しみだった。得心させられるマーク屋の掟あり、競輪というギャンブルの歴史観あり、時には笑ってしまうような独特のルールがあったり。雄弁ではないが熱弁する某の声音が薄っすらとではあるが頭の片隅にある。
そうそう某は日大の自転車部出身で、ある意味典型的な体育会系でもあった。一度、俺が畳の部屋(選手が休憩する大広間)の近くでウロウロしていると、どうした——? と声をかけられ、仮メン(明日の番組表)が出たんですけど、Sさん寝ちゃってるみたいで……。わかった待ってろ、というや否やSのところまで移動、文字どおり叩き起こして、おい、コメントだよ——! S選手は日大自転車部の後輩だった。
某さんはとっくに選手を辞められ、往時の競輪を想い出すのもむずかしくなった昨今だが、それでもたまに、おおっ! 独り任侠道! と、にやりとさせられる競輪に出くわすと俺は嬉しくなる。
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