十一月晦日の昼すぎ、突然もよおし、車で大宮競輪場にむかった。
決勝の植原琢也を見ようというのが一応の「大義名分」であるが、ま、半ば以上暇潰しに近い。
コンビニで珈琲を買い、ザ・コレクターズの新譜を聴きながらドライブ気分の予定だったが、カーステレオとアイフォンがなぜだかうまく繋がらない。こういうことにはまるで駄目な俺だからややあって諦めたが、出発前から嫌な予感がした。
大宮競輪場にはもう一年二年行っていないかも知れない。
面白くないラジオを流しながらの運転は気が散り、車窓の景色が気になり、どうしてだか懐かしい人間のことを想い出したりする。
大宮競輪場のでっかい五百バンクを「大宮競馬場」と冗句で形容した昔の同僚は元気にしているだろうか。普段まるで冴えない奴が発した唯一の「秀句」を俺は今でも時々借用している。
大宮公園の駐車場に車を置き、ゆるゆる歩いて歩道橋を渡るが、人の気配に乏しい。迂闊にも東門が閉鎖されているのを知らなかった。ウロウロしながらブツブツ呟いている俺に、スケート・ボードの練習をしている白人の少年がチラチラ不審そうな視線を寄越した。
再びたらたら歩いて西門に廻ると、「入場パス」を申請して入場が叶うことを説明された。出された用紙にむかう俺の頭からはいきなり郵便番号が出てこない。仕方なく一旦飛ばして“川口市……”と書き始めたら全部出て来てホッとしたが、これだけのことで嫌な汗を掻いている。
頂いた「入場パス」の数字(会員番号?)に曳かれ買い目がちょっとだけ増えた。
二センターの金網越しに幾レースか観戦した。直線の長さ、器の大きさと、久方振りに見た大宮の走路はやはり競馬場だった。大宮バンクに七車立はとくに似合わないなぁ……。
集団が二センターの前を通るたびに「伊勢崎、最後突っこめよ!」。マスクを顎までずり下げた男の鋭い声が響き、周りの雰囲気は微妙だった。俺もすぐ傍だったから気になり、マスクと顔の隙間をさり気なく調整したりした。野太い野次や声援は競輪の華だというのに、厭な世の中になったものだ。ゴールのスロー再生を見るためテレビ下に集まった内の一人が吐き捨てた。「なんなんだ! 鷲田ってのは……」と。
♪想像してごらん/天国なんてないんだと/その気になれば簡単なことさ/僕らの足下に地獄はなく/頭上にはただ空があるだけ/想像してごらん/すべての人々が/今日のために生きていると……ジョンの『イマジン』の替え歌を帰り道に考えていた、愚かにも――。
♪想像してごらん/場内に人があふれて/銘々が勝手に野次って/勝手に応援している競輪場を……。
それどころじゃない人がわんさと困り果てているというのに、申し訳ないが俺は、昔の、過去の、以前の競輪を懐かしんで一日を終える。
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