むかしは、競輪場内のイベントによぶ歌手といえば、客受け無難なのは、演歌歌手を軸とした昭和歌謡の唄い手であった。景気がよかったころの競輪場にはいろんな有名人が招かれた。控え室に居るという江夏豊と大沢親分をのぞきにいったこともある。もう鬼籍にはいってしまったF先輩が、電撃ネット-ワークと一緒に京王閣競輪場の特設ステージに立ったのを、仲間総出で見物したのがなつかしい(むろん共演したわけではない――)。
俺が競輪をはじめた頃、俺ぐらいの年代は実にもう、競輪場では少数派で、まわりはみんな、こわいわけではないけど、海千山千のおとなに見えた。ノミ屋やコーチ屋がうろうろしている昭和の競輪場をなつかしくおもう。京王閣競輪場の二角付近で名カメラマン、じゃないな、有名な撮影監督の姫田真佐久さんとすれちがったのもまだ昭和だろうか。そのことを友人たちに得意げに報せると、信じてくれないやつがひとり、京王閣だったらありえるとふたりは信じてくれた。日活ロマンポルノ(むろん姫田氏の作品は多種多様であるが)と競輪の親和性、えらそうに俺は一席ぶったりしたか、はずかしげもなく。
監督神代辰己、撮影姫田真佐久の映画『アフリカの光』にしびれ、友人のSと北海道の羅臼を訪れたのはいくつのときだったろう。そのときはもう競輪に手をそめていたのだったかどうか。劇中に出てくるパチンコ屋にはいった俺とSのはしゃぎようったらなかった。主演の萩原健一目あてで観た映画だけど、脇の藤竜也がまぁかっこよかった。役柄は賭場をしきるやくざの親分。その藤がいまや朝ドラの漁師の爺さんを演じているのだから、隔世の感きわまるというやつだ。
もう、ほんとにあったことかどうかも、怪しい気分がおこり、みぞおちのあたりがきゅっとしまる。
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