二十七八年前に見たTさんのバンドのオープニングは「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」だったか「アンダー・マイ・サム」だったか朧気だが、ボーカリストのTさんは唄うときはミック・ジャガー、間奏になるとエアでキース・リチャーズのギター・カッティングの所作を披露し恰好よかった。
もういろんなことを忘れているのに、昔にTさんと行った中野のキャバクラ、「ポアゾン」の店名を憶えているのは何故だろう。俺と真逆で誰とでも気さくに話せるTさんに、完全な全方位外交ですねと揶揄したとき、笑いながらどう返されたのだっけ。気分屋の俺が理由は忘れたが後輩のМを蹴っ飛ばしたとき、すぐに間に入ってくれたのもTさんだった。
長い闘病生活だったのに、俺はアリバイ作りみたいに一度見舞いに行っただけだ。ごめんなさいTさん。俺はあまりうまく喋れなくて、Tさんの部屋のレコード棚ばっかり物色していたっけ。俺はTさんの怒った姿を見たことがない(といってイツモシズカニ・ワラッテイルわけでもないのだが)。俺は他の誰かになりたいと思ったことがない人間だが、Tさんにならなってもいい気もする(屑の俺がなれるわけもないのだが)。
良い人間ほど早く逝くとは、先人はよくぞ言ったものだ。
俺は素敵な一学年上の先輩を亡くし、競輪界は競輪が好きで好きでたまらない「競輪ブルース」記者を失った。
合掌。
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