大宮競輪場の門をくぐってすこし行くと、見るからに競輪人種とは異なる風体と物腰の男性が近寄って来て、マイナンバーカードはお持ちですか、もしまだなら特設のブースで申し込みできますが……ああ、僕は大丈夫です……そうですか失礼しました……。食堂は一軒しか開いていなかった。珈琲スタンドまで歩く。途中、閉めている方の店の貼り紙が目にとまった――「某月某日をもって……長きにわたり……」閉業を報せる内容だった。
場内放送でもマイナンバーの手続きが競輪場内で簡単にできます、写真を撮るだけでも無料ですと流れていた。
第九レース、二センターの金網越しに野太い声が響く。周回ごとに――「相原!」「相原、地元なんだからがんばれ!」「相原!頼むぞ」――言葉尻は微妙に変わるが、ただただ相原一人に声援を浴びせていた。
石原颯が捲って湊聖二の楽差しかに相川永伍がぐうんと突っ込んだように見えた。正直この角度からでは際どいのかどうかさえ私には判らない。コンクリの階段を数人が駈け降りた。テレビのスロー再生に向かって「五! 五! 五ぉ!」男の切羽詰まった声、こりゃわかんねえなと男が呟いたと同時くらいに写真判定だと場内放送が告げた。が、すぐに確定のアナウンス、速いなと男が誰に返すでもなく言った。昔の写判と違って昨今の写判は微差だろうが決定は速い。呆気ないほど、拍子抜けするほど速い。
帰り際、明日からは松山記念の車券を併売する旨のアナウンスが流れ、出入口付近では松山の初日の出走表が配られていた。
東武線大宮公園駅のホームにアイスクリームの自動販売機が設置してあったので、小豆入り最中アイスを買って食べた。美味い。ほおばりながら下りのホーム見ると、中年の女性が片足立ちの簡易トレーニング? をしているのが見えた。
恥も外聞もなく人前でアイスを食べている爺が、まるで自室にいるみたいに両足を交互に片足立ちを繰り返す女性を見ている。もちろんその逆も成り立つ。
げに、下界とは不思議なものである。
それとも競輪場の近くは磁場が特殊なのかしら。
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