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帽子とジャンパー

2025/03/14 19:01 閲覧数(259)
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 大宮競輪も戸田競艇もやっているのに川口オートを選んだのは、自宅から近いからという理由だけじゃない、素人目にも十一と十二レースの頭が堅いと踏んだからだった。
 十レースの発送時間あたりを目途に家を出た。
 レース場に近づくと立てつづけに三人、野球帽を被りジャンパーをまとい足元スニーカーの老人とすれ違った。私もおなじような装束だった。二十代後半時分の競輪場で、帽子をちょこんとかぶり紺や茶や黒や灰色のジャンパー姿の老人を見ながら、年をとったらはたして俺も、あんな風になれるのだろうか、と思ったことがあったような気もする。だとすれば本当になれたンだなァ――不思議な心地になった。当時の老ギャンブラーはスニーカーではなかった。帽子はどうだったろう。記憶が曖昧である。
 頭鉄板のギャンブルで私がやることは数十年来変わっていない。十一は、堅い本命には薄目が付きものと買ったが六百いくらの三連単で順当だった。最終は、本命から千円内外の配当にまとめる。オッズと睨めっこしながらひとつの目を選んだ。買い終えたら急に空腹をおぼえた。五十円引きだという焼きそばと黒モツを食しペプシコーラを飲んでもまだ時間があった。ベンチに座って大宮と大垣の結果を見たが全部はずれていた。と右の方からぶつぶつ「まったくどうしようもない」とつぶやきながら歩いてくる男が視界に入った。男は私が座っている三人がけのベンチの端に腰かけ話しかけてきた。青山周平でどうしようもない辺りを想像していた私だったが、男は物価高と賃金とギャンブル場の客のすくなさについて論じはじめた。顔を見ると田原総一朗にちょっと似た白髪の老人だった。いやァおれはよくわからんから、と私が言うと、ま、そうなんだけどなと白髪は言った。しかし青山が負けたら大変なことになるな。うん、だけど堅いンでしょう、と私は返した。二着三着はどうなるんですか? そりゃ七番五番か五番七番だよ。もちろん頭は八だよう。と言うから私は、それじゃおれの車券ははずれだァ、と皮肉っぽい薄笑いを作った。いやァまともに(「真面目に」だったかも)走れば、だよ。ギャンブルなんてむこう次第だから、わかりゃしない。それじゃ期待しちゃうかなと言いながら私は席を立った。一センターの金網越しに観戦した。いつの間にか白髪がよこにいた。何もしゃべりかけてこなかった。レースの途中、残り二周くらいだったか、なんか青山元気ないなとぽつり声に出した。青山は一着にきたが二着も三着も大きく抜けた。八、二、四だってよ、吐き捨てるようにタハラソウイチロウが言った。

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