インターネットのイの字もなく、スピードチャンネルもない昔、現場で流される前日の競走の録画映像は貴重だった。各競輪場で提供の仕方はまちまちだったが、「その時間」になると客がぞろぞろテレビの前に集って来、バサバサっという音を立てながら手元の新聞の成績欄を開き、手際よく準備態勢を整えた。
――この五番はこわれてるなァ。とか、
――四番の新人は強くなるぞォ。とか、
――馬鹿だねえ二番は、あんなとこで競っちやって……。など、
ベテランたちの観戦評を俺は耳をダンボにして聞いていた。もし俺が生意気にも能書など挟もうものなら(そんな度胸が二十代の俺にあろうはずもないが)おそらく一蹴されたことだろう。
知り合いの仕事場を訪ね、一日終った特別競輪のVТRを全レース繰り返し三度ずつ見、翌日の車券推理の参考にする――。そんな伊集院静のエッセイが懐かしい。
簡単に幾度でも競輪の映像を見られるようになった昨今、競走に於ける隅々までの選手の所作を解説してくれる人間が周りにはたくさん居て、それはそれでなるほどなァと感心もするのだが、あまりに自信満々の御説には引いてしまうことも又ある。
十年早いぜ――。そう俺が誰かに吐けば、違う誰かからおなじ言葉が返ってくることだろう。
〽あんた何もわかっちゃいない/わかったふりをするにしても/年を食い過ぎてる――とシオンが唄っている。
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