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ほんの少し弱くなっただけ

2020/04/29 20:57 閲覧数(2551)
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 〽走る列車の/リズムにあわせ/缶ビールがゆれている/窓の景色も/そこそこに/あ~少し酔ってしまったな~/海岸線は/故郷へ向かう道/負けたんじゃない/逃げるんじゃないさ/ほんの少し弱くなっただけ(作詞・江上徹)――六角精児バンドが奏で六角精児がメイン・ボーカルをとる『ディーゼル』はカントリーの佳曲である。
 東京都下に三十年、埼玉に三十年余棲んだだけの俺に、故郷へ向かう海岸線の心情を語る資格はないが、地方の片田舎を走る、ドリンク・ホルダーなどない旧式の列車の、窓辺に置いた缶ビールが揺れる旅路は、幾度も経験している。そしてその何回かは競輪の遠征であった。
 作家伊集院静のエッセイだったか、地方の競輪場からの帰途、おなじ車両に輪行バックを担いだ競輪選手が乗ってくる話があった。見知らぬ二人は会話をするわけでもなく……原文を探そうとしたが本棚の周囲は雪崩れており諦めた。読後三十年、もしからしたら四十年近く経過しているのかもしれない。暇だらけのいい機会だから断捨理でもしようかしら――。
 三日間のレースを終えた競輪選手が帰りの列車で缶ビールを飲んでいる。車内はすいており隣の四人がけの席に輪行バックが立てかけてある。「――某! お前はそこじゃないだろう。下げてんじゃねえよ――!」客の野次がまだ頭に残っている。番手(勝負)のつもりだったのになぜ下げたんだろう。奴(競る相手)の顔を見たから? そうかもしれないが、いや違う――。最初から三番手でもいいやという弱気の虫が俺にあったのだろうか。どうも最近はヨクナイなァ……。時代は昭和、戦法はマーク一本のベテランの憂えに『ディーゼル』の二番が被る。〽時間調整の/小さな駅で/ディーゼルの音を聴きながら/ホームにおりて背伸びをすれば/あ~少し気が晴れる/海岸線は/故郷へ向かう道/負けたんじゃない/逃げるんじゃないさ/ほんの少し弱くなっただけ――そんな一景を含蓄する映画があればいい。
 負けるも逃げるも慣れっこの俺は、少しどころじゃなく弱っている。



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