名古屋の本場におればもちろん自室のテレビ観戦でも赤地に黄で抜いた「味仙」の広告板を見ると食欲が起こる。
十年近く前だろうか、特観席と金網を行ったり来たりしながら、丸一日名古屋競輪場で遊んだ事がある。大レースの三日目だったかなぁ。車券の方は鳴かず飛ばずで、頻繁な観戦場所の移動が応え最終手前には疲労を感じて指定席に座り込んでいた。目の先に見える「味仙」の看板に急に空腹を覚え、もう車券なんてどうせ当たらん、見たらさっさと出、味仙なる店でたらふく食べよう。レースが始まる前から私は既に「補正」の計画を練っていた。
【名古屋記念競輪】二日目の浅井康太の一着失格で車券が紙屑になっている私だから相変わらずギャンブルの流れは悪い。競輪に落車と失格は付きものだから、だらだら曳き摺る事はないけれど、やっとこさ取った車券、しかも安~い二車単がそんな憂き目に出くわすというのがいけない。もろに下がっている証左である。
その落ち目の男のつまらない着眼。
阿部力也にはどちらかと云えば前をぶち抜く印象を持つのだが、今開催は三日間四角ハコで廻って来、大石剣士に四分の三車輪、渡邉雄太に四分の三車身、眞杉匠に四分の三車輪と完全のマーク屋と化している。四分の三、四分の三、四分の三が呪文の様で気になる。
「今回の阿部は流れ込み野郎だよ――」と誰かは云う。云ってやれ、どんどん云って頂戴。私は息を殺して(今日だけ抜けばいいんだから、決勝だけ思いっ切り踏んでチョーダーイ!)四分の三車(身・輪)ズブッと行って貰いましょう。⑦①と①⑦の二車単を買います。
追記。前述した大レースの三日目の帰路、私が「味仙」に寄る事はなかった。理由は最終でなぜか大きく儲かってしまったから。懐が暖かくなった私には食欲より物欲で、急ぎ帰京し、前から欲しかった洋服を手に入れたのだった。故にまだ私は味仙の味を知らない。
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