競輪場の台付の予想屋が節づけ唸る。コレ当ててハワイ旅行~。三十年前の濁声の口上をまだ忘れないでいる。海外旅行が手軽になった当今、もう魅力あるキャッチフレーズとは言い難いがそれでも、車券で儲けてハワイ旅行――は俺の中に直球明快なギャンブルの「目的意識」としてずっと在る。
六階の記者席に昇る最新式のエレベータが地震を感知し中途で止まり、閉じ込められた俺の四方で小さな竜巻が起きて時空がずれる。正気に戻った俺の耳に「最終は穴ァー、はい、ハワイ旅行~」と届き、そこは瞭かに昔の競輪場だ。既視感なんてもんじゃない。此処は昭和の京王閣競輪場だと認識した俺は、場内を歩きながら一つ一つ検証し始める。粗末な指定席、「三-五」「三-六」……と札が並ぶ車券の穴場。大釜から煮え立つ臓物の匂い。高みのスタンドから駆け下りてくる長髪の若者は二十代後半の俺だった――。
競輪タイムスリップもの映画の開巻はこれだ。ま、誰にも相手にされない企画だろうがシナリオだけは出来てる、数年前に。
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