Eさんの墓前には好物の缶コーヒーが手向けてあった。おっ、誰か来たんだなと嬉しくなった。よく見ると口が開いていない、これじゃ飲めないよねEさん、とつぶやきながら蓋を引っぱり置き直した。もうひとつの好物ラッキーストライクを線香がわりに供した。ライターで火を点け二三口すった。Eさんの墓参に来るといつも煙草の味をおもいだすことになる。墓の下だかそこらにいるかもしれないEさんに話しかけた。返事はないが風が卒塔婆をゆらした。ふとIちゃんの声を聞きたくなった。墓の前に座り込んで電話をした。EさんもIも、タケちゃん(竹林さん)それは違うとおもうぜ(よ)と私を諫めてくれるひとだ(だった)。
一年ぶりだろうと二年ぶりだろうと、Iとの会話はすぐに、おととい飲んだばかりのような感覚になる、と記すのはちょっと無理があるけど、それに近いタイムスリップ感がおきるのだった。
あいかわらず車券は買っている。もう腐れ縁だ。競輪が俺らを出逢わせてくれたのだから。まァ仕方がない。とIは言った。
腐れ縁かァ、いい言葉だな、と私は感心した。そろそろIちゃんの『最後の授業』を聞きたいものだ、と更に言った。
私もIもEさんも腐れ縁で車券を買っている(いた)、と想ったら軀がすこし軽くなり、愉しい気分になった。
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