数年前の話だ。
ずっと七着だったチャレンジの選手が最後の最後に綺麗に一着、その競走を見た関係者が俺に、ドウナットルンダと訝った。ずっと商品価値ゼロだった選手がなぜ辞める間際に簡単に勝てるのだ! けっして簡単に勝ったわけではないし、勝ちが決まっていたわけでも毛頭ない。辞める選手に華を持たせようとするラインの思惑が功を奏した結果なのだ。と俺は説明したが相手の憮然とした表情は解けなかった。
憤りは重々わかる。ある人間にとって疑念に近いものが、ある人間にとってはこれぞ競輪と説かれてしまうのだから。以来、俺はチャレンジ選手のラスト・ランの車券を意識して遠ざけるようにしているが、S級で辞める選手、A級一、二班で去ってゆく選手は別だ。点数不足で選手登録を抹消されるのとは違い、まだやれるのにレーサーを降りる。正真正銘の引退なのだから。
ここからは本日の話。
昨日は静岡F1開催・最終日の新聞を作っていた。地元紙からの情報で第一競走の佐藤英史(東京・84期)が有終であることを知った。コメントの第一報は田村武士-佐藤-渋江洋平と点数がなくともハコ主張だった。しかも田村と佐藤は同期生だ。人気薄の第三ラインだけど応援車券だな。と思った矢先にファックスが鳴り第二報。コメント訂正で田村-渋江-佐藤と点数順の並びに落ち着いた。あァ佐藤はオトナシク最後を走るつもりなのだ。独りごちて勝手に諦めた俺の頭から「引退レース」は消えたのだが……。
所用を済ませて帰宅後パソコンを開いたら佐藤一着、斉藤紳一朗二着、佐野恭太三着で12690円と99680円。田村が引っ張って渋江-佐藤で番手発進、そこを単騎の斉藤が追う。そう考えりゃ取れるじゃないの! 結果から逆算する女々しいギャンブラーなど風上に置けない。
明日の有馬記念(ガールズ・グランプリもちょっと)、三十日の競輪グランプリと大一番を控えているというのに、赤に近い黄色信号が点った俺だ。
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