締切直前のオッズをちらっと見たら郡司浩平-深谷知広そのままで二千円以上つけていた。
もし捲りに回ったら? それでも抜かれちゃうか。郡司ガマンだと五百円、深谷に清水は三百円台。つかないなあと思う半面、競輪独特の売れ方が好もしくもあった。
捲りに回る気など更々ない郡司が全ツッパで膳立てしたものの、清水裕友の加速と勝負心が優った。
競輪は、いや勝負事は、やっぱり思いきりだなとつくづく思う。その思いきりの背中を押すのは勝ち癖である。何か月かさかのぼれば「捲り届かず」の清水ばかりだった。それが今は真逆である。年頭の大宮記念は平原康多の番手捲りの上を捲った。今日は深谷の番手捲りに怖じけず先に仕掛けた。ともすれば窮屈な競輪で調子を落としていた清水だが、本来の奔放な競輪が完全に戻ったようだ。
清水、深谷、佐藤壮とはいって二車単950円から三連単は9270円。佐藤はよくがんばった。準決も決勝も佐藤をばっさり切った私は穴があったらはいりたい気分である。
佐藤のクリップバンドの調整のために水が入ったとき、私はEさんと見ていた何十年も前の京王閣の競輪を思いだした。似たような水入りだった。三番選手が検車場に戻っている間にEさんは言った。三番もってないんだ。まずいな。どうしてですか? いや三番けっこう野次られるだろう。前もあったんだ。再発走のとき滅茶苦茶野次られた選手の二着。はぁ。やっちまったという動揺もあるし興奮もしている。こういうときの選手はこわいのよ。そのレースは◎の一番車から△の三番車に抜けて枠単で千円ちょっとだったと記憶する。
佐藤の三着を揶揄しているわけでは毛頭ない。ただ、競輪というものには、ギャンブルというものには、奇っ怪でよくわからない、むろん目に見えない何かが、ごまんと詰まっている。だから懲りずに、ゆえに飽きもせず、好きでいられるのかも知れない。
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