かつてフジテレビで深夜にやっていた「グラジオラスの轍」という番組で、エリートの同期石井寛子選手(当時は生徒)とは対照的な存在として苦戦する様子が描かれていたのが菅田賀子選手(同、以下文中選手名敬称略)、私がこの色白の東北美人を知ったのはこの番組が最初である。
現在よりだいぶ線も細く、大変失礼ながらスポーツ選手のイメージとはかけ離れたそのルックスは大いに私の目を引いた。
「ずいぶんかわいい子がいるじゃない。」というのと同時に「本当に大丈夫かな?」というのが正直なところで在校成績は104期生(ガールズ2期)18人中18位、あの「コンコルド」こと菅田順和氏の娘という「良血」であってもそれだけで勝てるほど甘い世界ではない。
辛うじてデビューしたものの案の定の低空飛行、根本的に脚力不足であるばかりか偉大な父の影を追ってなのか無理やり自力を出そうとしてまともに飛び出してしまうのでとてもではないが車券に絡んでくる雰囲気は感じられなかった。
しかしそれだからこそとでも言おうか、そのルックスと選手としての「キャラ」が相まって何とも気になる存在になり、「いつになったら車券に絡むんだろう」は「頑張れ!」に変わっていく。
昔競馬で「ハルウララ」というのがちょっとした話題になったがそれにも少し似た感じだったかもしれない。
そんな菅田のレースが少しずつ変わってきたのはいつ頃だっただろうか。
デビューから1年、2014年3月26日の松戸最終日一般戦で③着となりついに初めて車券に絡む。
ずっと注目してきたから「ここしかない」というのはすぐにピンと来た。
その時の事は拙著「平成貧窮問題歌」でも触れたが三連複で大きく勝負、メンバーも低調だったためそれほど穴にはならなかったが、まさに瞬間を掬い取れたのは会心だった。
すると5月23日にはなんと予選で③着、そして更なる歓喜の瞬間はすぐにやってきた。
8月10日静岡最終日一般戦、これ以上ない低調な組み合わせになっていかにもチャンスに思えた。もちろん車券もガッツリだ。
突っ張り気味に踏んでおいて飛び出してきた選手の番手に嵌る理想的な運行、あとは前を交わすだけだったが6番手にいた藍野美穂さん(引退)が内からものすごい脚で突っ込んでくる。
藍野さんがわずかに差し切ってゴール、しかしこれが内側追い抜きで失格となり繰り上がりで菅田の初勝利となった。
余談だが藍野さんは結局未勝利で引退、まさに「幻の①着」だった。
そこからまた半年経ってしまうが翌2015年3月2日の西武園最終日一般戦で2勝目、今度は正真正銘先頭でゴールした(笑)。
初勝利の形が形なので感動としては初めて車券に絡んだ松戸の方が大きかったように記憶しているが、競輪学校時代最下位でデビュー後も一年間車券に絡めなかったような選手がここまで来るのにどれだけ努力したのだろうか。
お世辞にも「強い選手」とは言えないが「絶対値」はともかく「伸び率」としては見るべきものがあり、その頑張りは十分に応援のしがいがあった。
しかし戦いはこれで終わりではなくずっと続いていく。
ガールズケイリンではすでに106期生(ガールズ3期)がデビュー、勢力図がガラッと変わってここから目覚ましくレベルが上がっていく。
さらに代謝制度の導入、下位の選手達は常にその恐怖とも戦っていかなければならない。
菅田もデビュー時のような暴走はだいぶ減ってマーク戦からの差しが主流になり、そうするとそれまでは半分ぐらい⑥⑦着だったのがそこそこまとまってきてポツポツとだが決勝に乗ることも出てきた。
こういうのをセコいだのズルいだのという輩も少なくないが全くナンセンスで生き残る手段として工夫するのは当然、しかしそれでも急激なレベルアップについていくのは容易ではなく成績は一進一退で思うようには上がっていかない。
さらには故障もあり成績欄にはまた大きな数字が目立つようになってきたが、そのなかで私は「奇跡」を目撃することになる。
2017年7月23日、私は立川競輪場にいた。
6Rガールズ予選2、⑥石井貴子(千葉)とデビューしたばかりの⑦梅川風子が打鐘から激しくモガキ合う。
④菅田は初手で絶好の貴子マーク、このままついていけるかどうか。
いったんは貴子が突っ張り切ったかに思われたが梅川が再度グイグイと襲い掛かる。
菅田は3角でうまく貴子から梅川に切り替えてさらにその後ろから⑤元砂七夕美も来て4車の争い、ゴール前では4車がほぼ並ぶ大激戦となるがその中で青いユニフォームがわずかに前に出ていた。
②着梅川③着元砂で貴子はまさかの④着、三連単は349,300円という大穴になった。
貴子と梅川がある程度やり合うのは想定内だったが予想以上にもつれてその後の7Rと比べて上がりタイムが1秒程度遅い異様な展開、完璧に立ち回った菅田がびっくりの予選初勝利である。
いくらファンでもこんな車券を「理」で買えるはずもなくその日のトータルも惨敗、それでもなんだかちょっとした映画かドラマでも見たような気分になり「よかったなぁ」と満足して立川を後にしたものだった。
あのメンバーで勝っちゃうならここからまた再浮上…と大いに期待していたが結局予選はこれが最初で最後の①着、2019年1月2日の岸和田最終日一般戦①着を最後に勝ち星からは遠ざかっている。
そして今年に入り1月22日に菅田のブログを覗くと衝撃の「報告」が…。
2月7日からのいわき平開催で
私、菅田賀子は
競輪選手を引退します
(原文のまま)
ついにこの時が来てしまった。
よほどのトップ選手でない限り一般ファンに事前に引退を知らせるケースは少ないように思うが、きっとこの選手の人柄なのだろうしこのようにブログで報告というのはいかにも今の時代らしい。
なんとも残念だが1勝も挙げられずにバンクを去る選手も少なくないなかでここまで本当によく頑張った!
あと一走、最後まで全力で頑張ってくれるだろうしこちらも全力で応援したい。
2/9
いわき平5Rガールズ一般
①菅田 賀子 104宮城♡
②寺井 えり 114北海道▲
③飯田 よしの 106東京
④石井 貴子 104東京◎
⑤田仲 敦子 104熊本△
⑥椿本 浩子 114愛媛
⑦出口 倫子 116長崎
予選2走を見る限りは厳しい印象だが①賀子様が最後を飾るにはこれしかないだろうという私の思い描いた通りの組み合わせになってくれた。
④貴子が初日の暴走で予選落ち、実際に二日目もそうだったように貴子が前を取って同期の賀子様を引っ張ってくれればこのクラスでは捲れるはずがないのであとはついていけるかだけの勝負になる。
さすがに差せるとは思っていないが感謝を込めて裏も少し、②寺井と⑤田仲へ流せば大丈夫だろう。
三連単
④→①=②⑤
①→④→②⑤
「お疲れ様でした」はまだ早い(笑)!
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特別寄稿 菅田賀子様引退
2020/02/09 8:57 閲覧数(3298)コメント(5)
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