東京ドームに巨人ファンの合唱が流れ、横浜ファンの唸るようなエールが聴こえて、打楽器のリズムが巨大な天井に跳ね返る。ここは送りバントだろう――俺の声は掻き消され、前の男女はほぼダンシング。野球観戦の楽しみは人それぞれだろうが、皆が解説者然としたそれに慣れ親しんだ俺は戸惑ってしまう。斜め右の小父さん二人は好みの娘が通るたびにビール、ウィスキー、焼酎割を買い求め、キャバクラ気分だ。あれだけ飲めば酩酊に近い。が、右の男が左の男にポツリ言った。――もう百十球だし替え時だろう。限界――と即答の二人組に大きな親近感が湧いた。
中央のボーカルの指図に従って前列の男女が右左にステップする。過剰に煽るバンドに俺は内心シラけてしまう。最近はライブの途中で抜け出すことも珍しくなくなった。
アナーキーのライブを最後列で腕組みしながら観ている内田裕也。映画「嗚呼!おんなたち猥歌」の一景を忘れないでいる。
競輪場に熱狂的な声援がこだまする。テレビの解説者もレポーターもスポーツ紙も感動を声高に伝える。異論はないし俺だって貰い泣きすることすらあるが、それでもこうも思う。――デカい声だけが全てじゃないゾと。
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