先日、色川武大の『なつかしい芸人たち』を再読していたら、
「原健作って名前がわるいよ。スターの名前じゃない」
昔、友人がそういったことがある。
「月形龍之介なんて、月形半平太と机龍之介を合わせたんだろう。名前のスケールがちがう」
たしかにそうかもしれない。バンツマ、アラカン、チエゾウ、ウタエモン、子供たちはそう呼んだ。ハラケンというふう にはいわない。
そんな数行に当たった。
いきなりで恐縮も、「超一流にはなれないが ――原健策のこと」の章から引かせてもらったが、これだけでは氏のエッセイの要旨など伝わりようもなかろう。それでいい。只ただ私が「ハラケン」の呼称に反応しただけのことなのだから。
今、上のクラスで走っている競輪選手のなかで、よく車券を買う選手の三指に原田研太朗はまちがいなく入るだろう。彼が選手間やファンのあいだでどう呼ばれているかは知らないが、愛称はハラケンしかなかろうと、勝手に当欄でも登場させている。
生涯を通じて一番多く車券を買った選手は誰だと問われれば、おそらく井上茂徳と答えるだろうけど、シゲ差せ! とか、シゲノリ抜け! とも発したことはなく、やっぱり井上差せ! か、抜いてくれ井上! だった。
競輪選手の愛称なるものは、全国の競輪客がおもうままに付け、使っていることだろう。が、はたして、誰の何が、高い頻度で愛用されているのかは存外に想像しがたい。脇本雄太のワッキーは素敵なニックネームだし断然全国区だろうとはおもうけど、マスコミや選手間で使われるほどに、客どうしではどうなのだろう。
誰もが納得する愛称があるなら、一方で誰も考え及ばないような私的愛称も存在する。私の知人に志智俊夫を「俊夫さん」と呼ぶ男が居る。工夫もセンスもないとおもいきや、志智の風貌と佇まいにフィットする呼称にも聞こえ、不思議なおかしみを感じたりもする。
私の場合、中野浩一はナカノだし、滝澤正光もタキザワ、坂本勉もサカモトと愛想がないが、周りもそんなもので、というか超一流は名字で通用する。ナカノ~捲っちゃぇで充分だったのだ。
ま、それでも何個か、超一流選手の愛称は浮かぶのだが、やはり単純省略型が多い気がする、ヤマケン(山口健二)、ヤマコウ(山口幸二)ETC.――。
今売り出し中の山口拳矢(山口幸二氏の息子さんだ)ならヤマケンかぁ……。ふと、愚にも付かない冗談をつぶやいてみるが、そりゃ無理だ。
先日の平塚FⅠナイターの決勝戦では「ケンヤ~」という黄色い声が場内に飛んでいた。
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