昔は一番強い先行屋に一番強いマーク屋が付けて表裏どっちか。枠番車券のみだったから関係ないが、三番手四番手もほぼ実力順で信ずべき本線だった。横紙破りの競りがあってもまず負けない。ただその場合は逃げ切り一本の車券となる。ラインの地域性が濃くなってからも基本は変わらず、ベテラン某と売り出し中の某、どっちが競り勝つか。口角泡飛ばす客と客も「逃げ-マーク」の競輪を無条件で信じていた。
現在の競輪のまァ本命の脆いこと。朝一番の口開けのオッズを覗くと待ったなしで「二段駆け」が売れている。出勤前に「番手捲り」の車券を仕込んでから家を出る。そんな絵を想像すると嬉しくなってくる。
競輪は大きく変わった。あの頃とは較べようもないくらい先行屋に辛い競走形態となり、固いギャンブルが穴のギャンブルへと変質したと書けば大仰だが、信ずべきは犠牲役が備わる「番手捲り」は現実だ。それはそれで楽しく適応を図るだけだが、小さな寂しさもなくはない。
附記。大昔の立川競輪場の諍いを想い出した。どっちの親爺も枠番単式の◎○を持っているのだがその競走、三番手が競りなのだ。三番手主張の二人のヨコはどちらが優るか。アアデモナイコウデモナイのあとに号砲が鳴った。――お前の位置だぞ、絶対に負けるなよ。――勝負は最後の一コーナーだ。思いっ切り持ってっちゃえ! 両人は周回中、車券に関係ない三番手の二人にずっと発破を掛けていた。
そんな時代もあったのだ。
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