「切れてなーい！」は昔流行った（私の周囲だけかもしれないが）髭剃りのＣＭで使われたフレーズである。新製品が従来の剃刀とは違う。髭の濃い白人が新旧二種の切れ味を試す。旧品を使ったときのそり残しを示し「切れてなーい」と若干大げさに言う。そんなような内容だったと思う。
　私の好きな車券に◎から抜けがある。
　脇本雄太でも犬伏湧也でも、別にそんなに強くなくてもいいのだが、とにかく番手が離れる車券を、本命から薄目を買う。◎が仕掛ける。（番手の選手は）切れてる？　と期待を抱くも、切れてなーい。第一関門を突破できず。がくんと脱力する感じを何回も何十回も（もしかしたら百を超えるのかな）味わってここまで生きてきた。
　昔の三回転五分のギヤの時代、離れた番手はほとんどがそのまま圏外だった。
　ところが四回転近くで走る今はけっこうわからない。大ギヤゆえ踏み出しはみんな苦しい。一瞬遅れたように見える。切れてる！　と歓んだのもつかの間、追っかけ直してマークという光景もすくなくない。しつこく書けば、切れてる？　切れてる！　いや、切れてなーい。となるのか。
　切れてる？　切れてなーい。阿吽の呼吸で返したり返してもらった。そんな仲間たちも一人二人……ほとんどみんないなくなってしまった。仕方ないからテレビの前で一人二役「切れてる？」「切れてなーい」と口を《もごもご》やっている。