前半の四個レースは枠番複式のみの発売だったから(逆に後半六個レースは枠番単式でしか買えなかった時代の競輪の話だ)、B級の固そうなところを選りすぐって買う――。
映画『競輪上人行状記』で渡辺美佐子扮する女が椅子に己の軀を縛りつけ、目当てのレースまでムダ金を使わないよう我慢するという場面があったが、俺は◎〇の百八十円が的中してもしなくても競輪場を去ることが出来なかった。
後半三個レースしか買わないと決心したはいいものの、競輪場に居ながら待つのは生殺しの「苦行」であり、入場を遅くするため街をぶらつき余分な金を使うわけにもいかず、結局はつづかなかった。
お気に入りの選手から全通り流すと徹底した時期もあるが、当該選手が四五六枠の場合ゾロ目も買うのかどうかで迷ったり、どうしても「六通り」に濃淡をつけたくなり挫折した。
真剣に出目に凝ったこともあるが、徹底すればするほどストレスで胃がやられ、競輪が楽しくなくなった。
一念発起して? 車券は絞らず拡げるだけ拡げてしっかり押さえる。そんなモットーを基に二か月間ぐらい種銭が減らなかった経験があるが、顛末の記憶は消えている。
せかせかと、取るに足らない「律」を次々に捻りだしては放った。車券で手銭を増やすためなのか、車券をずっと買いつづけるためなのか、目的意識が微妙にずれた。
あれから四半世紀以上が経過しても俺は成長率ゼロで、ガールズケイリン専門を実践するがなかなか計が行かず、ツマラン理由でいきなりやめた。ボックス車券に凝ったと思えば、頭を決め二着三着を五人選ぶフォーメーションに浮気したり、挙句の果ては勝負するなら特別開催の三連複だとひそかに実行したこともあった。
幾つになっても愚策を編み出すことに精を入る俺の日常である。
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