むかしの競輪場には怖い人や変な人がたくさんいた。やたら大声で、もっぱら大げさで、ほぼウソでしょう? つぅような「説話」を唾をはかんばかりのいきおいで力説していた。ま、今の競輪場にもいないことはないか、だいぶすくなくなっちゃったけれども。
はじまった、はじまった。顔はそっぽを向きながらおれは、耳だけを話主のほうこうにあわせる。また麻雀の話かい。うん? 内容は前にきいたときとほぼおなじだ。けど諸々の数字には下駄をはかせているようだ。見栄を張るのはリップサービスにちがいなく、おれはさとられないように親しみのシグナルをおくった。
余談だが、小倉の競輪中継で展開予想のさいに使われる、競技場の走路とスタンドを模した絵図に描かれた、立錐の余地もない満員の客席を見せられると、前述の男の話五倍十倍などかわいいものだとおもってしまう。
毎度毎度の皮肉と嫌味、自分でも廉恥なき人物よのう、と省みたりもするが、独善固陋の毒をはき、けむたがられるのも、爺さんの役目なのだ。
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