十二個レース中半分が一番車の頭だった高知記念はノーホーラ、小田原の寺崎浩平・村上義弘を読み違え、京王閣のラス前・第十競走は樋口開土の九連勝特進を嫌ったことだけ正解で配当ゼロなら、迎えた最終のS級決勝はもう、◎山田英明を拝むしかない。
林大悟がドカ~ンと逃げヒデアキ番手捲りの画は赤板附近、まだあと二周もあるのに消えた。もつれあう二人が落車したその瞬間、一人の部屋で嗚呼~と声が出た。
無観客の京王閣競輪場内ではいったいどんな音が響いたのだろう。
競輪独特の、落車特有の、自転車の音や観客の声が早や懐かしい。
互いに知らない以上に、フンってな感じで場内を擦れ違う何千人が、ある瞬間見事同時に驚嘆の声を発する。そんな競輪場がもう戻らないのではとおもわざるをえない、暗く恐い影が忍び寄る日々だ。
話はいきなり飛ぶが、昭和の五十年代ごろ、中央線の車窓から「遠くの親戚より近くのオークラ」(の方が有用)なる質屋の広告看板が見えた。読むたびに名文句だなぁと感心したものだ。
競輪は一人の「嗚呼!」より大勢の「嗚呼!」がいい。
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