俄金網族となって「最終」を観戦した。
京王閣競輪場の二センターには西陽が射し、ちょっと見にくかったが、今の俺ではどのみちこの角度からゴールの視認など無理だろう。俺の昔の「定位置」は二コーナーだった。コンクリートの出っ張りに肘をもたせ掛け(ときには登って声を荒げ)競輪を見ていた。オーロラ・ヴィジョンなどなかったから、一団がゴールするとすぐテレビがある場所まで走った。スロー再生を見るためだ。俺の友人はまあまあの金が入ったセカンドバックを、そのほんの数分のあいだに盗まれた。
俺は先頭で通過する武田豊樹-諸橋愛ではなく、黒帽と赤帽、郡司浩平と稲垣裕之の競り合いから目が離せなくなった。眼前でぶつかり合う二人から発せられる「熱」が、そこでしか聴けない「音」となって俺に届いた。
競輪場の周りをちょっとだけ散策した。昔、М先輩とI先輩が揉めた鰻屋があった。二人が言い争いとなった玄関口が懐かしかった。もう二人ともこの世にはいないのか。
駅前まで戻ると「喫茶みよし」の暖簾を老女が仕舞うところだった。
「ホッピーなんざん」は閉まっていた。ゴールデン・ウィーク中の休業を知らせる紙片が貼ってあった。高架線路の左下の小道を歩く。ちょっと行って右折、高架をくぐって今度は京王線の右下を歩くことになる。俺の前を男がゆるゆる歩いていた。時々立ちどまり、くちゃくちゃになった競輪新聞を広げ、ペンを使って何かを記していた。追い越しざまに除くと男が持つのは「サイクル」だった。しばらく真っ直ぐ進むと多種の木々に囲まれた見憶えのある古民家が現れた。そうだ、やっぱりこの道だ! 昔の「マイ・スイート・ロード」を俺の軀が憶えていてくれたことを俺は嬉しく思った。
調布駅が地下化してから何年が経つのだろう。
パルコ二階のスターバックスの窓側の席から様変わりした駅前を見ている。
毎日毎日車券を買って・飲んで・笑って・泣いて――。ついきのうのことのような「中年の青春」なにもかもが、駅とともに地下に埋まってしまった気がして俺は滅入り、カプチーノの味がしない。
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