むかし何処かの競輪場で、裏を食らって負けた腹いせに、差された選手を痛烈に野次っている年格好三十すぎ位の男を見た。けっこうな怒気だった。誰かが寄って来て言った、兄(にい)さん、アツかろうと。
五番手のラブレイセンが赤板で前との車間を切っているので、早めに行っちゃう気だなと思い、まず三番手にすっぽり松崎広太がはまる展開が怖くなり、その通りになった後はやっぱりトゥルーマンの差しが怖くなった。結果は全部私が怖がる方に転がり最後はトゥルーマンと松崎のズブズブ迄行った。
ラブレイセンとトゥルーマンは同じ歳だが、ラブレイセンは今年が初来日、トゥルーマンは幾度も国際競輪を走っており、その意味ではベテランである。やる事、見る事はじめてのラブレイセンに、なにくれと面倒を見た事だろうとは容易に想像が出来る。
私は、岸和田F1の「一車輪」を完敗と記し、あたかも勝負付けが済んだように思い込もうとした。そんな私が、岸和田で抜けなかったからこそ今日は抜くという競輪にアツくなる資格はない。しかも仮にそう思えたとしてトゥルーマンからラブレイセン三着なる車券を買えたのかと質されたら返答に窮する。だいたいラブレイセン-トゥルーマンから大森慶一の車券なぞ惜しくもなんともない。その通りだ。しかしどうにもこうにも今日の競輪は「兄さんアツかろう」なのである、私にとっては。大仰に申せば自分を見失ってしまう位アツい。
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