普段三連複は滅多に買わないのに、大事な競輪祭で、その三連複一本などという奇策をとった私のギャンブルは、更に沼の深みにはまってゆきそうだ。
　因みに決勝の一番人気は、３連単が一（脇本雄太）と九（南修二）と二（松浦悠士）で3980円、２車単は一（脇本）と九（南）の1060円、３連複は一（脇本）と二（松浦）と四（松井宏佑）で1450円だった。
　粋に一寸捻ったつもりだった私だが、結局一番人気を買っていたわけだ。三連複名人の某に笑われそうだ。
　しかし最近、気がつくと一番人気を買っている事が多いような。
　別に穴だと思って買った車券が一番人気だったというわけではない。が、抜けば一寸くれるだろう。三着はずらせば五百円くらいあるかしら。そんな指向の買いが、ことごとくではないにしても、すくなくない確率で一番人気になっている。むろん当たっているのなら気に病むこともないのだが、はずした車券が一番人気と知ると、己のセンスのなさを嘆くとともに、損したような気分になるのが女々しい。
　予想紙の仕事を長らくつづけていると似たような事に出くわす。
　紙上の印は◎〇と打った。でも〇はけっこう調子がいい。今日は裏目が狙いだろう。打った。来た。よろこんだのもつかの間、〇◎が一番人気の結果に一寸気まずくなる。
　◎〇で思いだした。
　三十数年前の立川競輪場。他紙のＫ先輩が「おれの◎○で二十五倍もついてる」と自嘲気味に言った。明るい人だったので気持ちの切り換えも早い。「よし、おれが大枚ぶちこんでオッズを下げてやる」と息巻きはじめた。ただ最近の朝一チャレンジ一般戦ならいざ知らず、あの頃の立川の最終ともなればかなりの売り上げで、そりゃ無理だ。でも周りがはらはらするくらいの額は買ったと思う。最後は予想紙の影響もあってかＫさん◎○は十六七倍くらいまで落ちていた。
　これが見事来ちゃうんだから、ギャンブルはどこに幸運が転がっているかわからない。もちろん同じ行為――自分の◎○可愛さに損をした記者の方が圧倒的に数は多いだろうけど。
　記者席のボルテージは一気に上がった。祝儀が撒かれ、仕事帰りの宴会が組まれ、何人かは祝儀とは別にＫさんに借金を申し込んだ。
　あの日に帰りたい。