年末の競輪グランプリは地上波のテレビ中継があるから、毎年母親に俺の本線の車券を五百円ずつ買ってあげることにしている。
母子で「念」を送りながら観戦するせいではなかろうが、俺のグランプリの車券は毎年「惜しいところ」まで善戦している(ギャンブルに惜敗なぞ無意味なのは承知だが)。
一昨年は⑧②⑥、②⑧⑥と教えたらゴールは⑥②⑧。十分ほどして掛かってきたお袋の電話は「アンタは天才だねえ」だった。払い戻しなどない「はずれ」だと説明しても、言った三人なのだから順番など関係ないとご満悦だった。
昨年末は⑥③⑨、③⑥⑨を買って結果は③⑥⑧。やっぱり十分後ぐらいに電話があって、今度は「神業だねえ」の賛辞だった。
地団太を踏むような負けばかりのグランプリだが、母親があれだけ誉めてくれるのだからヨシとしよう。
グランプリだぜ、おっかさん!
と、十一か月後に俺が伝える数字をおふくろ様は、あまり調子のよくない右手で紙にメモするだろう。もしまた似たような惜しい負けを繰り返せたなら、2017年の母は電話口でどんな誉め言葉を用意するのだろうか。意外やギャンブルに賢くなっていて、「二車単で押さえるとか、三着は流すなりしないと――」と叱られれば最高なのだが。
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