初めて競輪場を訪れたとき、もちろん金網のむこう側の「闘走」にも興奮はしたが、こちら側の「人種」に俺は完全にヤラレてしまった。烏だか鳩だかを肩に置く乞食風体、レースが終わるごとにヨシ獲ったァ!(すべての競走だ)と大声を発する男、食堂でライスだけ注文して持参の生卵を掛けあっという間に平らげる中年、隻腕の地見屋(車券の拾い屋――間違えて捨てられた当たり車券を探して歩く)、ハワイ旅行~とコブシを効かせる予想屋……。場内はまるで奇妙な動物園のようだった。
今日も明日も居る居る愛しのファニー・フェイス! 競輪場の門をくぐるたびに心中で歓ぶ俺は、その「異郷」では瞭かなニュー・フェイスだった。
あれから四十年近い歳月が流れ、ニュー・フェイスは中途半端に歳を喰い、ファニー・フェイスにもなれず、想い出したように競輪場に足を運ぶ。昔と様変わりしていようとも競輪場は競輪場だから、時々やっぱりファニー・フェイスは探せるものだが、当該のファニー・フェイスが自分より年下なのか年上なのかわからなくなって、変な息苦しさを感じたりする。
西武園競輪場の料金五百円の特観にかならずあらわれた光圀公(上から下まで時代劇「水戸黄門」だった)を忘れないでいる。恥ずかしさをかなぐり捨て今、ボロ着を纏うチャップリン装束で競輪場をうろつけば、あの翁に並ぶことが出来るのかしら。
映画『パリの恋人』の原題は『Funny Face』、ザ・コレクターズに『ファニー・フェイス』というロックンロールもある――。
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