遠山競輪研究所
S級へ特別昇級した選手の特徴と成績( 2022/10/07 )
S級への昇級には前期(1~6月)・後期(7~12月)の切り替わり時に適用される「定期昇級」と、期変わりに関係なく特別に設定された条件を達成した選手に与えられる「特別昇級」があります。
今回は「特別昇級」した選手について、選手の特徴と昇級後の成績、および特別昇級選手を軸とした車券の回収率について調査してみました。
特別昇級選手が出走するレースの車券購入時の参考資料としてお読みください。
以下目次項目
1. 特別昇級者数の動向
S級への特別昇級には、「A級1・2班戦での3場所連続完全優勝」と、「レインボーカップ・A級ファイナルレースで3着内に入着」の2つの制度あります。どちらも達成した翌日からS級2班への昇級となります。
直近10年間のS級への特別昇級した選手の年別人数を表1.に示します。
表の ( ) 内はデビュー1年未満者の人数です。
3場所連続完全優勝での昇級者は2019年から急に人数が増えています。
新人のレベルが全体的に高くなってデビュー1年未満で昇級する選手が増えたのも大きな要因ですが、A12班戦のレースが従来の9車立てから7車立てに変化してきたこと[※1]、またガールズレースの増加によってA12班戦の1開催のレース数が減少したことによって、優勝しやすくなったことも 一つの要因でしょう。
(1開催へのA12班選手の参加人数の平均値は2013年は約50人であったが、徐々に減ってきて2021年には40人を切っている)
一方レインボーカップによる昇級者は、前期・後期で各3人ずつなので毎年6人となります。
※1)A12班戦が9車立てから7車立へと変化した主な要因
・2013年に始まった3日制ミッドナイトが広がってきた
・2017年に始まった7車立てモーニングが広がってきた
・2020年7月からコロナ対応でA12班戦は全て7車立てとなった
表1. 直近10年の特別昇級者数の推移
年 | 3連続完全優勝 | レインボーカップ |
---|---|---|
2013 | 2(1) | 6 |
2014 | 6(2) | 6 |
2015 | 7(4) | 6(1) |
2016 | 8(5) | 6 |
2017 | 6(4) | 6 |
2018 | 6(3) | 6 |
2019 | 18(12) | 6(1) |
2020 | 11(6) | 3 ※2 |
2021 | 22(10) | 6 |
2022 | 6(5)※3 | 3 ※3 |
◇ 表の ( ) 内はデビュー1年未満者数
※2)2020年はコロナ禍で前期ファイナル戦が中止
※3)2022年は8月31日現在の人数
2. 特別昇級選手の特徴
直近5年間(2017年7月~2022年6月)に特別昇級した選手について、昇級時の選手歴と脚質を 表2-1.と 表2-2.に示します。
対象期間の特別昇級選手数は、「3場所連続完全優勝者」が 63人、「レインボーカップ・A級ファイナル3着内」が 27人です。
3場所連続完全優勝での昇級者はデビュー1年目の新人が58.7%、デビュー2年目の選手が23.8%です。2年目までの若手選手だけで全体の82.5%を占めています。脚質も「逃」がほとんどで全体の92.1%です。
一方レインボーカップによる昇級者は若手に片寄っておらず、中堅やデビュー20年以上となるベテラン選手も相当います。また脚質も「逃」が55.6%で最も多いのですが「追」の選手も29.6%おり、それほど片寄っていません。
ちなみに直近5年間において、3場所連続完全優勝で昇級した最年長は80期・舘泰守選手で、昇級時(2018年12月)42歳でした。
レインボーカップで昇級した最年長は、は55期・大竹慎吾選手で、昇級時(2018年6月)52歳でした。
表2-1. 特別昇級時の選手歴
選手歴 | 3連続完全優勝 | レインボーカップ |
---|---|---|
1年未満 | 58.7 % | 3.7 % |
~2年未満 | 23.8 % | 3.7 % |
~5年未満 | 4.8 % | 18.5 % |
~10年未満 | 6.3 % | 25.9 % |
~15年未満 | 1.6 % | 14.8 % |
~20年未満 | 3.2 % | 14.8 % |
20年以上 | 1.6 % | 18.5 % |
表2-2. 特別昇級時の脚質
脚質 | 3連続完全優勝 | レインボーカップ |
---|---|---|
逃 | 92.1 % | 55.6 % |
両 | 4.8 % | 14.8 % |
追 | 3.2 % | 29.6 % |
3. 特別昇級後の成績
直近5年間(2017年7月~2022年6月)に特別昇級した選手について、「S級昇級後の初期成績」として 昇級後3場所の成績を 表3-1.に集計しました。
3場所連続完全優勝で昇級した選手は、昇級後も勝率・連対率・決勝進出率・優勝回数のどれを見ても良い成績です。
昇級後3場所内で優勝を達成したのは 表3-2.の左側の8人ですが、全員がデビュー1年未満に特別昇級した新人でした。中でも早期卒業者の119期 寺崎浩平選手と121期 中野慎詞選手は昇級後いきなり3連続優勝を達成しています。
レインボーカップで昇級した選手は、3場所連続完全優勝者と比べると全般的に成績は劣るのですが、こちらも「9車立て」の比率が高いことを考慮すると勝率・連対率は平均値を上回っており悪くはありません。
しかし優勝回数となると、期間中で1回だけとかなり少なく感じます。
ちなみに優勝1回は2018年後期のレインボーカップで昇級した76期・島田竜二選手ですが、優勝した昇級後初戦は2019年前期となり、特別昇級で与えられたS級2班ではなく、前々期で得た得点によるS級1班の格付けで特選スタートでした。
表3-1. 特別昇級後の初期成績(3場所成績)
項目 | 3連続完全優勝 | レインボーカップ |
---|---|---|
場数 / レース数 | 189 / 577[※4] | 81 / 250[※5] |
出走時の 脚質比率 | 逃:両:追 92: 5: 3 | 逃:両:追 55:15:30 |
勝率 | 32.4% | 16.4% |
連対率 | 50.7% | 27.6% |
決勝進出率 | 29.6% | 13.6% |
優勝回数 / 率 | 12回 / 6.3% | 1回 / 1.2% |
平均競走得点 | 103.49 | 101.52 |
連対時の 決まり手比率 | 逃:捲:差:マ 54:37: 6: 3 | 逃:捲:差:マ 17:42:31:10 |
※4)577レースの車立て比率は次のとおり
5車:6車:7車:8車:9車 = 1.0:6.2:39.3:1.2:52.2
※5)250レースの車立て比率は次のとおり
5車:6車:7車:8車:9車 = 1.6:4.8:22.0:1.6:70.0
表3-2. 特別昇級後、S級戦3場所内で優勝した選手
3連続完全優勝 | レインボーカップ |
---|---|
| 76期 島田竜二(熊本) |
*を付加した選手はデビュー1年未満に特別昇級した選手
4. 特別昇級選手を軸とした車券の回収率
上で示したように特別昇級選手のS級昇級後の勝率は結構高いのですが、特別昇級選手を軸とした車券は回収率的に有利な車券となるのでしょうか?
直近5年間(2017年7月~2022年6月)に特別昇級した選手について、S級昇級後3場所のレースで調査を行ないました。
4-1. 3場所連続完全優勝で昇級した選手からの車券
表4-1.は、3場所連続完全優勝で昇級した選手の昇級後3場所間のレース(577個)の2車単および3連単の配当(中央値・平均値)と、うち特別昇級選手が1着となったレース(187個)に限定した配当(中央値・平均値)です。
特別昇級選手が1着時の配当はかなり低く、全レースの配当の半分程度です。
表4-2.は、3場所連続完全優勝で昇級した選手の、昇級後3場所間の「2車単オッズでの単支持率の順位」の比率と「レース結果の着順」の比率です。
レース結果は1着の比率が32.4%ととても高いのですが、オッズ1番人気(=単支持率1位)となる比率はそれ以上に高く44.9%にも上ります。
表4-3.は、3場所連続完全優勝で昇級した選手の昇級後3場所間の全レースで特別昇級した選手を1着とした車券を購入した場合の回収率です。
なお表中の各回収率の意味は次のとおりです。
- ・単勝車券回収率は、対象選手を1着とし、払い戻し額が均等となる資金配分で2着全流しの2車単車券を購入した場合の回収率。
(例えば1レースの購入総額を1,000円とする場合、計算上の資金配分なので個別車券の購入額は 215円や58円等の1円単位での購入も可として計算)
つまり、対象選手の単勝車券を想定した回収率。 - ・2車単全流し回収率は、均等配分で2着を全流しした場合の回収率。
- ・3連単全流し回収率は、均等配分で2着および3着を全流しした場合の回収率。
「2車単全流し回収率」や「3連単全流し回収率」は2着・3着に入る選手によって回収額が左右されるので、今回のように軸選手を評価する場合には「単勝車券回収率」に注目します。
3場所連続完全優勝で特別昇級した選手からの車券の単勝回収率は75.4%でした。通常の上位人気選手の単勝回収率は76~78%程度になりますので、やや低めの回収率となります。
勝率は高いのですが、それ以上にオッズ人気が高くなること、1着時の配当が低めであることから回収率は低めとなります。
「3場所連続完全優勝で昇級した選手を軸とした車券は、回収率的には有利ではない」と言えるようです。
表4-1. 3連続完全V選手が出走レースの配当
車券種類 | 2車単 | 3連単 | ||
---|---|---|---|---|
中央値 | 平均値 | 中央値 | 平均値 | |
出走全レース分 | 1,220円 | 2,950円 | 5,070円 | 16,386円 |
昇級選手が1着時 | 580円 | 1,400円 | 2,550円 | 8,684円 |
・対象レースの車立て比率は次のとおり
5車:6車:7車:8車:9車 = 1.0:6.2:39.3:1.2:52.2
表4-2. 3連続完全V選手のオッズ人気とレース着
オッズ人気 (単支持率) | 順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位以下 |
---|---|---|---|---|---|
比率 | 44.9 % | 23.9 % | 14.7 % | 16.5 % | |
レース結果 | 着順 | 1着 | 2着 | 3着 | 4着以下 |
比率 | 32.4 % | 17.9 % | 10.6 % | 39.2 % |
表4-3. 3連続完全V選手を軸とした車券の回収率
的中率 | 単勝車券 回収率 | 2車単全流し 回収率 | 3連単全流し 回収率 |
---|---|---|---|
32.4 % | 75.4 % | 67.1 % | 70.7 % |
4-2. レインボーカップで昇級した選手からの車券
表4-4.は、レインボーカップで昇級した選手の昇級後3場所間のレース(250個)の2車単および3連単の配当(中央値・平均値)と、うち特別昇級選手が1着となったレース(41個)に限定した配当(中央値・平均値)です。
上の3場所連続完全優勝者のデータと違って、レインボーカップ昇級者が1着時の配当は2車単・3連単とも全レースの配当より高くなっています。
表4-5.は、レインボーカップで昇級した選手の、昇級後3場所間の「2車単オッズでの単支持率の順位」の比率と「レース結果の着順」の比率です。
レース結果の1着比率は16.4%で、上の3場所連続完全優勝者の比率よりはかなり低いのですが、9車立てが多い(表4-4.の下の車立て比率を参照)レース構成なので悪くはありません。
しかしオッズ1番人気(=単支持率1位)となる比率はその半分以下の8.0%です。
表4-6.は、レインボーカップで昇級した選手の昇級後3場所間の全レースで特別昇級した選手を1着とした車券を購入した場合の回収率です。
単勝回収率は127.5%[※6]という高い値でした。実際の勝率に対してオッズ人気が低いということ、1着時の配当が高めであることが高回収率の理由でしょう。
2車単全流し回収率は91.1%、3連単全流し回収率は109.4%ですが、上手く2着・3着の目を絞ると単勝回収率より高い回収率を得られます。
「レインボーカップで特別昇級した選手を軸とした車券は、回収率的にはかなり有利だ」と言えるようです。
※6)対象レース数が250個と少ないため、127.5%という数値の統計的な信頼度は高くはない。
表4-4. レインボー昇級選手が出走レースの配当
車券種類 | 2車単 | 3連単 | ||
---|---|---|---|---|
中央値 | 平均値 | 中央値 | 平均値 | |
出走全レース分 | 1,460円 | 3,846円 | 6,660円 | 27,018円 |
昇級選手が1着時 | 2,010円 | 4,073円 | 9,010円 | 31,926円 |
・対象レースの車立て比率は次のとおり
5車:6車:7車:8車:9車 = 1.6:4.8:22.0:1.6:70.0
表4-5. レインボー昇級選手のオッズ人気とレース着
オッズ人気 (単支持率) | 順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位以下 |
---|---|---|---|---|---|
比率 | 8.0 % | 16.0 % | 17.6 % | 58.4 % | |
レース結果 | 着順 | 1着 | 2着 | 3着 | 4着以下 |
比率 | 16.4 % | 11.2 % | 13.2 % | 59.2 % |
表4-6. レインボー昇級選手を軸とした車券の回収率
的中率 | 単勝車券 回収率 | 2車単全流し 回収率 | 3連単全流し 回収率 |
---|---|---|---|
16.4 % | 127.5 % | 91.1 % | 109.4 % |
5. 特別昇級選手の昇級前得点と昇級後得点
特別昇級選手のS級昇級後の初期において、出走表の「直近4ヶ月の競走得点」はA12班戦の得点であり(選手によってはそれ以前のチャレンジ戦の得点も含んでいる)、選手の実力判定には役に立たないことは皆さんも十分ご承知だとは思います。
ここでは特別昇級選手の「S級初戦時の直近4ヶ月の競走得点」と「昇級後3場所の競走得点」を散布図にして、その関係を視覚的に表してみます。
まずは比較データとして、通常の(直近4ヶ月に昇級がない)S級選手のデータを示します。
図5-1.は今年(2022年)5~6月に3場所以上出走したS級選手で、直近4ヶ月もS級だった選手の「直近4ヶ月の競走得点 vs 5~6月3場所の競走得点」の分布図です。
青線は y=x の直線で、直近4ヶ月の競走得点と5~6月3場所の競走得点が一致すればこの線上となります。
赤線は分布の回帰直線です。選手の得点分布はバラツキはありますが、回帰直線は y=x の直線とほぼ一致しており、出走表の「直近4ヶ月の競走得点」は選手の実力を表していると言えるようです。
一方で図5-2.と図5-3.は、直近5年間(2017年7月~2022年6月)に特別昇級した選手の、昇級後のS級初戦出走時の「直近4ヶ月の競走得点」 vs 昇級後3場所の競走得点の分布図です。
上と同様に青線は y=x の直線で、赤線は分布の回帰直線です。
図5-2.は3場所連続完全優勝で昇級した選手の分布図です。直近4ヶ月の競走得点は昇級前のA12班戦やその前のチャレンジ戦のものとなるため、分布は青線から離れたとことで大きくバラついており、赤線(回帰直線)もまったく相関関係を示さないやや右下がりとなった状態です。
図5-3.はレインボーカップで昇級した選手の分布図です。直近4ヶ月の競走得点は昇級前のA12班戦のものとなります。こちらは 図5-2.に比べると、直近4ヶ月競走得点と昇級後3場所得点にある程度の相関が見れますが、それでも赤線(回帰直線)は青線とだいぶズレています。
いずれにしても、特別昇級選手のS級昇級後の初期(厳密に言えば4ヶ月間)は「出走表に記載される直近4ヶ月競走得点の値は、選手の実力を示さない」ようです。