遠山競輪研究所

【同着レースの発生率減少について】( 2018/11/12 )

2018年10月にGambooコラムに3回シリーズで投稿した「同着レースの発生率減少について原因を調べてみた。」を 分析記事として再編集しました。
車券検討に役立つ内容ではないのですが、閑話としてお読みいただければ幸いです。

ここ10年における同着レース発生率の推移

競輪分析で過去レースを集計していると、1着、2着 及び3着の同着レースは例外処理が必要となってちょっと面倒です。
ところが、昔に比べると最近は同着が少なくなったように感じるのです。

ここ10年の1着、2着 及び3着の同着発生率を調べてみました。
(次表の同着数は1着、2着、3着に同着が発生した回数で、発生率は同年レース数に対する割合)

2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年(注)
レース数 同着数 発生率
30,280 400 1.32%
32,404 431 1.33%
31,815 392 1.23%
28,169 355 1.26%
28,329 325 1.15%
26,935 284 1.05%
24,584 249 1.01%
23,223 259 1.12%
22,471 230 1.02%
22,495 189 0.84%
14,997 131 0.87%

(注) 2018年は 1月~8月の集計。

2008年は 1.32%だった同着レース発生率が、2018年には 0.87%となり、ここ10年間で3割強も減少しています。
また同着レースでも、「3人同着」とか「1着が同着で3着も同着」等の複雑なケースも2012年以前は年に複数回あったのですが、2013年以降は1件も発生していません。

着差における「微差」、「タイヤ差」割合の推移

同着レースが減少傾向にあるのは、

「判定写真の解像度がアップして、微妙な着差が判断できるようになったことが原因ではないか?」

と思っていました。
そうなると従来なら同着と判断されていたレースが「微差」や「タイヤ差」と判断されて、同着数が減った分「微差」や「タイヤ差」の数が増えているはずです。

ここ10年の 1-2着、2-3着、3-4着間の着差における「微差」「タイヤ差」の割合の推移を調べてみたのですが…、
(下表で着差数は1-2着、2-3着、3-4着間の数。 微差率、タイヤ差率は着差数に対する割合)

2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年(注)
着差数 微差数(率) タイヤ差数(率)
90,917 1,209 (1.33%) 2,336 (2.57%)
97,250 1,336 (1.37%) 2,423 (2.49%)
95,492 1,305 (1.37%) 2,338 (2.45%)
84,529 1,068 (1.26%) 1,937 (2.29%)
85,003 1,027 (1.21%) 1,967 (2.31%)
80,839 1,008 (1.25%) 1,854 (2.29%)
73,771 930 (1.26%) 1,677 (2.27%)
69,664 854 (1.23%) 1,496 (2.15%)
67,418 790 (1.17%) 1,418 (2.10%)
67,474 902 (1.38%) 1,371 (2.03%)
44,995 545 (1.21%) 852 (1.89%)

(注) 2018年は 1月~8月の集計。

着差における「微差・タイヤ差」の割合が増えているかというと…、逆に減っている感がある。
となると、なぜ同着レースが減ったのか? 判定写真の解像度は関係なく、単にゴール前で接戦となるケースが減ったということでしょうか?

車立て数と同着レース発生率の関係

同着レース減少の真の原因を解明するために、まずは 車立て数と同着レース発生率の関係について調べてみました。

 
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年(注)
9車立て(8車立て含む) 7車立て(6車・5車立て含む)
レース数 同着数 発生率 レース数 同着数 発生率
30,247 400 1.32% 33 0 0.00%
32,326 430 1.33% 78 1 1.23%
31,779 392 1.23% 36 0 0.00%
27,932 352 1.26% 237 3 1.27%
20,645 262 1.27% 7,684 63 0.82%
19,000 225 1.18% 7,935 59 0.74%
17,211 190 1.10% 7,373 59 0.80%
15,972 200 1.25% 7,251 59 0.81%
15,168 164 1.08% 7,303 66 0.90%
14,889 143 0.96% 7,606 46 0.60%
9,360 91 0.97% 5,637 40 0.71%
234,529 2,849 1.22% 51,173 396 0.77%

(注) 2018年は 1月~8月の集計。

やはり車数が少ない7車立てのほうが、9車立てより同着レースの発生率は低くなります。

2011年はミッドナイト(7車立て)が開始されました。
2012年からはチャレンジ戦が7車立てとなりました。また、ガールズケイリン(7車立て)も開始されました。
よって2012年から7車立てレース数が一気に増えて、全体としてそれ以前より同着レース率が低くなったことは当然と言えます。

しかし9車立てにおいても同着レースは年々減少してきているし、ここ10年で3割強も減少した主な原因はこちら側にあるようです。
う~ん、何故なんでしょう?

バンク長と同着レース発生率の関係

ちなみに、バンク長と同着レース発生率の関係は次のようになります。
ここ10年の同着率減少の具合にバンク長別の差異はなかったので、10年間の合算値だけを記します。

◇対象期間: 2008年1月 ~ 2018年8月
◇対象レース: 期間中の全成立レース 285,702 R

 
333バンク(注)
400バンク
500バンク
レース数 同着数 同着発生率
45,134 408 0.90%
210,286 2,428 1.15%
30,282 409 1.35%
285,702 3,245 1.14%

(注) 前橋335含む

長走路ほど同着レースの発生率は高くなります。
ここ10年で333バンクの廃止は無かったのに対し 500バンクは、大津びわこ(2011年3月に廃止)、熊本(2018年4月から休止)、千葉(2017年12月から休止)の3場が廃止・休止になっており、これも同着率減少の一因ではありますが、その寄与度はとても小さいです。

クラス別の同着レース発生率推移

次に、「S級戦」「A1・2班戦」「チャレンジ戦」「ガールズ戦」のクラス別に同着レース発生率の推移を調べてみました。

 
2008年
2009年
2010年
2011年(注1)
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年(注2)
S級戦 A1・2班戦 チャレンジ戦 ガールズ戦
Race数 同着率 Race数 同着率 Race数 同着率 Race数 同着率
7,274 1.72% 15,631 1.35% 7,375 0.87% - -
7,791 1.46% 16,672 1.33% 7,941 1.21% - -
7,729 1.37% 16,361 1.38% 7,725 0.78% - -
6,890 1.61% 14,497 1.32% 6,782 0.78% - -
6,917 1.39% 14,040 1.22% 7,233 0.80% 139 0.00%
6,359 1.26% 12,890 1.16% 7,222 0.75% 464 0.22%
6,430 1.01% 11,430 1.17% 6,005 0.78% 719 0.42%
6,189 1.15% 10,696 1.31% 5,505 0.82% 833 0.36%
6,164 1.18% 10,272 1.03% 5,062 0.97% 973 0.21%
6,295 1.11% 9,998 0.80% 5,079 0.69% 1,123 0.36%
4,114 0.95% 6,622 0.94% 3,470 0.78% 791 0.38%
72,152 1.32% 139,109 1.22% 69,399 0.85% 5,042 0.32%

(注1) チャレンジ戦の2011年以前は9車立て。
(注2) 2018年は 1~8月分の集計。

チャレンジ戦とガールズ戦において発生率の変化は見られないのですが、S級戦とA級1・2班戦においては 発生率がかなり減少してきています。

クラス別の決まり手比率の変化

クラス別に、ここ10年の1着2着の決まり手比率の変化を見てみます。

◇クラス別 決まり手比率の推移(単位:% )

 
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年
2018年(注)
S級戦 A1・2班級戦 チャレンジ戦 ガールズ戦
15.0 22.7 44.2 18.0 16.6 20.6 44.1 18.7 25.4 21.8 31.6 21.2        
13.8 23.8 44.6 17.8 17.7 21.1 42.1 19.2 23.8 23.1 32.5 20.5        
15.4 23.8 42.6 18.2 17.5 22.0 41.4 19.0 21.7 25.9 31.8 20.6        
14.5 25.1 42.2 18.2 17.5 23.4 40.0 19.1 21.7 29.2 29.6 19.6        
14.7 25.7 41.3 18.3 17.8 24.2 39.4 18.6 26.6 24.6 27.4 21.4 25.5 30.6 16.2 27.7
15.4 26.9 39.0 18.8 17.5 25.8 38.4 18.3 26.8 22.5 29.9 20.7 23.0 35.6 19.1 22.3
14.6 27.8 38.9 18.7 16.5 26.7 38.6 18.3 26.1 19.7 33.0 21.3 22.9 34.1 19.7 23.3
13.5 28.2 40.3 18.0 17.3 25.6 38.5 18.6 25.9 19.8 33.9 20.4 24.7 29.8 21.6 23.9
15.1 28.0 38.9 18.0 17.6 25.4 38.3 18.8 26.4 20.2 32.4 20.9 22.8 32.4 19.7 25.1
13.1 29.1 40.4 17.3 17.2 25.6 38.6 18.6 27.8 19.5 31.2 21.6 22.1 34.4 21.1 22.4
14.3 28.5 39.6 17.5 18.1 25.4 38.0 18.5 27.5 20.6 30.0 21.8 22.2 33.2 19.4 25.2
14.5 26.1 41.3 18.1 17.4 23.8 40.1 18.7 25.2 22.8 31.2 20.9 23.0 33.0 20.1 23.9

(注) 2018年は 1月~8月の集計。

この表で注目すべき点は、S級戦とA級1・2班戦の「捲くり」と「差し」の比率の変化です。
ここ10年で「捲くり」の決まり手は徐々に増加してきており、その分「差し」の決まり手が減少しています。

同着レース発生率の変化との相関係数を計算すると、

S級戦
捲くり比率と同着レース率の相関係数 -0.88
 〃
差し比率と同着レース率の相関係数   0.81
A1・2班戦
捲くり比率と同着レース率の相関係数 -0.64
 〃
差し比率と同着レース率の相関係数   0.65

となります。
S級戦の捲くり比率/差し比率と同着レース発生率の間には強い相関があるし、A1・2班戦の捲くり比率/差し比率と同着レース発生率の間にも相関があります。

決まり手と着差の関係

1着の決まり手別に 2着との着差を分類してみました。

◇対象期間 : 2008年1月~2018年8月
◇対象クラス: S級戦およびA1・2班戦
◇着差グループの内訳:
  ※ 着差小グループ --- 同着(着差なし)、微差、タイヤ差、1/8車輪
  ※ 着差大グループ --- 1/4車輪以上の着差

1着決まり手
逃 げ
捲くり
差 し
マーク
着差数 着差小グループ 着差大グループ
53,121 4,543 (8.55%) 48,578 (91.45%)
86,765 4,571 (5.27%) 82,194 (94.73%)
127,608 14,251 (11.17%) 113,357 (88.83%)
163 12 (7.36%) 151 (92.64%)

この表からわかるように、1着選手が「捲くり」で勝った場合は2着との着差が大きい傾向にあり、「差し」で勝った場合は2着との着差が小さい傾向にあるのです。
(1-2着間で調べましたが、2-3着、3-4着間でも同様の現象がある思われます。)

同着レース発生率減少の原因

そうなんです。

★ S級戦およびA1・2班戦では、ここ10年間で 次位選手との着差が大きい捲くりの決まり手が増えて、次位選手との着差が小さい差しの決まり手が減ってきている。

というのが、同着レース減少の主な原因なのです。
前述の「車立て数と同着レース発生率の関係」を調べてわかった
・9車立てレースにおいて同着レース発生率は年々減少してきている。
は9車立てレースはS級戦およびA1・2班戦が主なので当然ですし、「バンク長と同着レース発生率の関係」でわかった
・短走路より長走路のバンクが同着レース発生率は高い。
も、長走路のほうが「捲くり」より「差し」の決まり手が多いというのが要因でしょう。

やっと原因判明!
といっても、これって車券戦術に役立つのか? だから何だと言われればそうなんですが…。

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