昔は新聞紙面も簡素な割付だったから、競輪開催前日の別称「前検日」は我々競輪専門紙記者にとって楽な一日だった。午前十一時少し前に競輪場に着いて、まずは他社の記者とタテ(新聞に掲載する選手の成績欄)の読み合わせをする(各社とも手作業・手計算だったから、けっこう間違いが見つかるのだ)。特選の九人ぐらいは共同インタビューがあったかも知れないが、全選手インタビューなどあり得ない時代だった。無事に参加選手全員が到着すれば程なく正式メンバー、事故選手の疾病状況などが発表され、それらを会社にファックスすれば本日の業務終了だった。遅くとも二時半過ぎには記者席を出られるのだから、近隣のギャンブル場に急げば「二鞍」は遊べる。
定番は京王閣競輪から多摩川競艇というコースで、見事な転がし舟券で小躍りしたN、最終が三艇フライングで延々と百円戻しに並ばされた過去の日を忘れないでいる。
松戸競輪から船橋オートにはYさんと一緒に行った。正門の処でばったり公営競技の実況で有名だったKさんに遇った。Kさんは開催の目玉選手である某についてネガティブな情報(そんな大仰なものでもないのだが)を俺等に語り、二人とも信じて某を消した車券を買った。結果は某の楽勝で帰りの足取りが重かったこと。隣の敷地で開業したザウス(屋内スキー場)が初年か二年目だったと記憶するから、二十年前の船橋オートレース場での話だ。
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