大雪に見舞われたダービー、「特観席」入場の際に査証がわりとなる手に捺された蛍光スタンプ、西千葉駅から歩く途中の公園内の檻に暮らす猿も忘れないでいる――。そんな幾度も記した俺の千葉の話より今日は、競輪選手を辞めた後、縁あってアオケイで働くことになった後輩Kの千葉の想い出でも――。
「もうクビ(点数が足りず登録消徐)が確定していた12月の千葉開催。初日のチャレンジ予選で辻中国宏(98期・引退)が断然◎、番手が自分、3番手に吉田さん、あの吉田拓矢のお父さん(吉田哲也・51期・引退)でした。もうほとんどの新聞が辻中◎自分○。オッズを見たら二百円ぐらいで、もう緊張しまくっちゃって……。辻中はぶっ放しで強くて完全にツキバテ――」
――離れたの?
「いやもうぎりぎりの流れこみです――」
――よかったじゃない。「よくやった! Kありがとうな!」 とか声かけられたか?
「全然余裕がなくて野次とかまったく聞こえなかったンですよ。敢闘門のスロープのところ上がるのもキツくってキツくって……」
――ツキバテかァ……。
「そういえばその開催で確定板の1着2着3着が全員失格になったレースがあったんですよ、4着以下が3人繰り上がって――」
――なんかあったァ、そんなの。
数日で見納めとなる五百走路の千葉競輪場を懐かしむファンが集まり、そのなかに辻中とKの一番人気をボン(一本で買うこと)した人間がひとりでも混じっていたとすれば、Kは幸せ者である。
現役で千葉バンクを走り一番人気の重圧を味わったKが、俺の隣の机で「さよなら千葉の500バンク」開催の新聞を作っている。
これだから人生は面白い。
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