程よい熱気に包まれた今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。
僕は今長野県に住んでいるのですが、やはり、世間に避暑地と言われるだけあって大変過ごしやすい日々が続いております。
ところでお盆という事もあり、近所にドライブに行くと県外車ばかり目にします。皆さんウキウキ行楽気分で笑顔の方が多く、こちらまで嬉しい気分になります。
普段であれば、そんな風に思っているかもしれませんが、今日の僕は違う。一味も二味も。なぜなら、爆死しているから。
さかのぼること半日前。遅めの起床をし、朝食と昼食を同時摂取すると「よし、暇だし競馬でもするか」となった。その考えこそ最悪の始まりだった。
その時に戻れるなら戻りたいもんだが、机の引き出しを開けてみても、押入れを開けても、どこを探してもあのネコ型ロボットがいない。ちょっとLINEで「どこにいる?」と聞いてみたら、「22世紀ナウ。」だそうです。
まぁ時間を巻き戻すのは無理そうなので、一応今日の振り返りだけはしておこう。めんどくさいけど、サルでも反省するらしいし。
ネットを開くと、高知競馬がちょうどいい時間に開催していた。
確か今日は先祖やらの魂をお迎えする日だとTVで言っていた。何人もの僕の戦士たちが高知競馬場で命を落としている。せめて魂だけでも取り返してやらなければ、死んでいった福沢も浮かばれないだろう。というわけで、高知競馬にお礼参りをする事にした。
早速、戦闘結果を通信兵の野口君に訊きたいと思う。
「はっ!我らの持てるすべてを出し尽くしたのであります!だがしかし、敵は我らの予想を遥かに上回る抵抗をみせ、数多くの戦士たちを拘束したのであります!そして捕虜とされた者たちの前で、我らの同志福沢を、背筋も凍るような残虐な拷問を与えたのであります。それによって我が軍は戦意喪失。此度の戦闘結果についてでありますが、戦士複数名消息不明。帰還してきた戦士はありません」
そういうと野口は膝から崩れ、大粒の涙を流した。
彼は此度の戦果を一番悔しがってだろう。実はというと、彼もまた多くの戦場に立ち、多くの仲間を失くし、そのたび涙を流していたのだ。だから今回こそは、絶対に皆で帰ってこようと約束していたのだ。だが、その夢は今回も叶わず、またすべてを失ってしまった。
彼は次に戦いがあれば、最前線で戦いたい、そして自分も戦場で命落としたいと言った。だが、それは叶うことはない。
彼は元は福沢だった。だが、先日の戦いで体の一部を失い、戦士レベル下級の野口になってしまったのだ。野口は、我が軍規定において最前に立つことが許されない。一度野口になったものは、戦果を挙げ樋口になり、さらに磨き福沢にならなければ最前には立てない。
しかし、もうこの野口君は福沢になれないだろう。なぜなら、戦地で死ぬことを怖くなくなってしまっている。こうなった戦士は、必ずと言っていいほど次の戦いで命落とす。彼には酷かもしれないが、私は彼の所属を戦地とは無関係な特殊組織「Suica」へ変更させた。
まぁ、まとめると、負けました。盛大に。
わかりにくいかも知れませんが、ちょっと競馬場を要塞に見立てるの楽しくなってきたので、もうちょっと書いてみようと思います。
世界屈指の要塞「高知競馬場」。誰しもその要塞の甘い香りに誘われ、門をくぐる。だが、ただの一人もその要塞から生きて出てきたものはいない。そのことを知っているにも関わらず、今日もまた一人二人と門をくぐる。その内の一人が僕だった。
要塞の中では、馬を走らせどの馬が何着になるかを当てるゲームが行われていた。人はこの遊びを「ケーバ」と呼んでいる。
ケーバをするには、まずどの馬が強そうか見定めていくらしい。ただ、初心者の僕には強い弱いの基準が分からない。そうして、キョロキョロしていると怪しげな者が寄ってきた。
「ぬし、悩んでる様だの。では、これをやろう」
そういうと、その老人は怪しげな紙を差し出してきた。紙をみると、何とも奇天烈な馬の名前と記号が記されていた。
「それを参考に強い馬を選びたまえ。◎が一番つよいぞい。では、ぬしに幸あれ」
そう言い残すとその老人は去って行った。
ふむふむ、この馬が一番強いと。右も左も分からない僕にこんなものを授けてくれるとは、なんと親切なお方だ。では、早速あの方の言っていたこの馬に賭けてみよう。
ケーバは自分が選んだ馬に賭けるには、「バケン」というものを戦士と引き換えに手に入れる必要があるそうだ。ものは試しよう、一人の福沢と引き換えにバケンを手に入れた。
福沢は悲しそうな顔でこちらを見たが、必ずお前を2人にして取り返してやる!というと笑顔で戦士控室へと消えていった。
大丈夫だ。こっちにはあの方に頂いた秘伝書がある。必ず勝てる。
意外にもバケンを手に入れてから間髪いれずにレースは始まった。やはり秘伝書の通り◎が早い。これは勝てる。鉄壁の要塞と言われていたが、案外脆いものだ。と、おや、まさかまさか別のがゴールテープを切っているではないか。何度見返しても、僕のバケンとは違う馬が一着だった。
だ、だまされた。それより、よくよく周りを見渡すと秘伝書を持った者が幾人も。この流通量からするに秘伝書なんかじゃない。ただの紙切れだ。だが、悲しいかな僕にはこの紙に頼るほかない。
そこからは早かった。何人もの戦士をバケンに変えたが、だれ一人帰ってくることはなかった。呆然としていると、後ろの方でこんなことを言っている者達がいた。
「いやー、今日の高知は荒れたねぇ。」
「うんうん。これじゃあ予想もくそもなかったぜ」
今日はアレタ。アレタとは何のことだ。もしかして、バケンを当てる秘儀のことか?気になって後ろの者に尋ねてみた。
「あの申し訳ない。ひとつ伺いたいのだが、アレタとはなんのことでしょうか」
「あーん!?アレタはアレルだよ!」
分からない言葉がもう一つ出てきた。もうだめだ、私のような初心者が手を付けていけないものだったんだ。そしてたぶん、ケーバをするには、アレルという事を知らないとやってはいけないゲームなんだ。だが、時すでに遅し。もう散財を尽くし誰一人戦士は残されていない。
こうやって皆要塞「高知競馬場」に骨を沈めていくのか。かくゆう僕もその内の一人だ。
またケーバをする機会があるかもしれない。そのために、意味は分からないが「アレル」という言葉を頭に入れておこう。
こうして要塞内に飲み込まれた者がいた。
そしてまた明日も要塞の門からは、甘い香りが漂うのだろう。
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kingkoike
面白いと言っていただけてうれしい限りです。
これからも、ノンフィクションの出来事をフィクション仕様に面白く書いていきたいと思います!
勝ちガラスになって、一緒に要塞をブッ壊しましょう!