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六-九と九-六

2019/03/18 21:09 閲覧数(620)
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 パンキッシュなTシャツにルーズ・フィットのジャケット、スゥェット・パンツに赤のソックス、黒い革靴――。映画『嗚呼!おんなたち猥歌』のジョージ役・内田裕也の恰好を上下真似て得意になっていたのはいつごろだろう。1981年の封切りで観ているはずだから、俺は二十三四歳だ。当時でも周りの反応は乏しかったから、今じゃ何の話だとまるで通用しまい。
 洋行帰りのロック歌手が空港からのリムジンバスの車中で、大型のラジカセと大振りなヘッドフォンでレゲエを聴いている――。『餌食』の冒頭の場面も忘れられない。
『水のないプールの』のラスト・シーンは京王閣競輪場の傍にあるプールで撮影され、脚本の設定は町田駅界隈だった(実際のロケはいろんな場所が入り混じっているらしいが)。脚本を書いた内田栄一が「駅前に奇妙に派手なビルが立ち並び、あと、何もないのだ。」と『内田栄一赤い帽子の女/水のないプール』内のプロセスノートで述べているが、その町田で十日前、友人恩人Tの葬式があり、俺は帰りに小田急百貨店の屋上に上がり、四方の遠景をぼんやりと見た。Tの終の棲家となった団地はどの方角なのだろう――。
 内田裕也が競輪グランプリで二三百万勝って、年末年始のニューイヤー・ロック・フェスティバルの資金に充てた話や、新橋のウインズで儲かった目が馬単「六-九」だった話が俺はたまらなく好きだ。
 供養じゃないが朝から「六-九」「九-六」を見得買いしようかと一瞬考えたが、電投の口座に残金がない。一日「六-九」「九-六」が出たらアツいなどというテレビの見方は情けなく、最低ちゃんだ。
 「俺は最低な奴さ」が入っている彼のアルバム『A Dog Run』を引っ張り出して聴いている。オープニング・ナンバーは「パンク・パンク・パンク」。軽快なロック・ビートにバーの酔客らしきユーヤさんの声が混じる。“おまえにロックがわかるわけねぇんだよ、だいたい。”と。俺はそのフレーズを聴きたいがためおなじ曲を三回リピートし、誰にむかってだか判然とはしないが(もしかしたら己にむかってかもしれない)、“おまえに競輪がわかるわけねぇんだよ、だいたい”と虚空に呟いた。

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