一ヵ月度ほど前、偶然チャンネルをあわせたテレビの旅番組のBGMに「君はいずこへ」が使われていた。原題は「I'M LOOKING THROUGH YOU」、作詞作曲レノン/マッカートニーでアルバム『RUBBER SOUL』の十曲目に収録されている。原曲とはアレンジが異なり、もちろん声も違う。誰がカヴァーしているのだろうと興味をいだいた矢先、「I'M Looking Through You・Steve Earle」と画面右下に出、選曲はナビゲーターの六角精児とあった。iTunesで該当曲のおさめられたアルバム『Train a Comin’』に辿り着くまでは俺の人生のささやかなよろこびである。
スティーヴ・アールを朝から部屋に流している。偶然にも六角精児が教えてくれた『Train a Comin’』だ。
おもい返せば只の偶然の重なりで今がある。
二十歳のバイト先の休憩室のテレビで特別競輪の中継を何気なく見、誰が頼んだわけでもないのに競輪というギャンブルの概略を説明しようとする男が隣に居て、そのWと麻雀仲間にならなければ、競輪なるものが俺の頭に薄墨のように残ることはなかっただろう。
十年後、すっかり競輪狂となっていた俺は某予想紙に就職するが、生来の根気のなさゆえ一年で嫌気がさす。居酒屋でだったかパチンコ玉を弾いてるときだったか、それじゃウチにくればいいじゃないかと同業他紙のIさんに軽く誘われ、三十年以上現職に居座ることになるのだから人生はわからない。
我が六十数年の人生に於いて、ほかにも偶然を与えてくれた恩人は数多居る。今や所在不明の人も居れば、俺の不義理のせいで逢えなくなった人も居る。ほぼ生き別れ同然の男も女も居るし、すでに墓の中の人もすくなくない。時折というかふっといきなり、重っくるしい懐かしさに気が塞ぐこともあるが、大丈夫。風呂場で洗髪しているとき、暇つぶしの公園のベンチで青空を見ているとき、電車のドアに寄っかかって外を景色が流れるとき、奴も、彼も、彼女もスッとあらわれるから、俺は大丈夫だ。
偶然に「予定数」はあるのかしら――?
俺はあと幾つ偶然に遇う・遭うことが出来るのだろう。
ま、競輪のい~いドラマも偶然だから、大丈夫、大丈夫――。
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