自宅から徒歩圏内の川口キューポラ杯にも行かず、大好きな川崎競輪場のサマー・ナイトもほっといて、俺は御岳山附近の多摩川遊歩道で午後の曇天の薄陽を浴びている。フラフラフラフラ――。川べりへ降りたり、また昇って歩道を歩いたり。軍畑駅から二俣尾駅までは青梅街道を歩く。二俣尾駅入口の階段から車道を挟んだ斜め対面には、雨風にこそげられたレトロな“主婦の友”の看板がそのままの、「多摩書房」がちゃんとあった。日曜日なので店は閉まっているが、ガラス戸に五郎丸のポスターが貼られているのは商売が続いている証しであろう。
俺が競輪の仕事に就く前の三年間だから1985年から1987年の間か。俺は「アルバイト・ニュース」という日刊誌を書店に配るバイトをしていたのだが、受け持った西多摩地区の終着店がこの「多摩書房」だった。雑誌は一日一部置いたのか二部だったか。ともかくなかなか動かないのだが、たまに一部売れていたりすると不思議な安堵が起こったものだ。朝早く八王子の事業所を出発、二俣尾には午前十一時ぐらいだったか。そこから小一時間掛けて八王子に戻るのだが、帰途の経路は二通りあり、武蔵五日市~小峰峠~川口~八王子の季節を感ずるコースを俺は好んだ。事務所に戻ると残紙の整理・伝票精算を済ませ、急ぎ競輪場へむかうのだ。まァよく続いたものだ、まるまる三年もそんな生活が。
清嶋彰一と波潟和男の街道練習(二人だという確証はないが)を目撃し、興奮したのも「多摩書房」の近くだったはずだ。
嗚呼、あれから三十年が経っているのか。
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