昨年３月の初め、私は１月の大宮記念で得た儲け（場外及びネット投票）を元に、大宮競輪場へと旅打ちした。
競輪場の正門に到着したときの気持ちの高ぶり、まして初めてその門をくぐるとなれば、係員や警備員のあいさつに返事をしてしまうほど心も開かれている。

３月とはいえまだ風冷えて、寒さをこらえるために予想に集中したが、集中したからといって容易に当たるわけではなく、せっかくの旅打ちもひとつさえ当たらぬままメインレースのＳ級決勝戦を迎えた。

旅打ちのきっかけとなった大宮記念の儲けは、一次予選、二次予選と続けて高配当をもたらしたある選手のおかげによるもの。
私は大宮競輪場のレースとの相性が良く、記念後に開催日程を眺めながら「３月初旬のＦ１戦に旅打ちしよう」と決めていた。

旅打ち大宮の最終レース。
奇しくも記念で儲けさせてもらった選手が出場する。
大宮へ行く前に、予選、準決勝のレースは当然確認しているが、３着、３着とまとめ、決勝進出を果たしていたのだ。
私は、その選手との「縁」を信じて最後の勝負を賭けた。

それまで観戦していた正面、２センター付近から向正面へと場所を移し、私はただ、青番号だけを追う。
普段は声を出さない私も、残り半周ではその選手の名を思い切り叫んだ。
直線長い大宮ならばこその追い込みを見せ、ゴール寸前で２着に突っ込んでくれた。
３連単は７万円超えの配当となり、数百円購入分を乗じた払戻しとなって、最後の最後で大逆転勝利を収めることができた。

その選手のおかげで実現した大宮旅打ちは、その選手のおかげで最高の思い出となったのだ。
ゴール後の周回でも、私はその選手の名を呼び感謝を伝えた。

記念の出来事がなければ、大宮旅打ちもきっとない。
ひとりの選手が、ひとりのファンの生活を動かし、さらには思い出までもをもたらしてくれた。

勝とうが負けようが、好調であろうが不調であろうが、それ以降ずっと、私はその選手を買い続けている。
互いを知らない、何に操られたか知らない「縁」は、少なくとも私の競輪人生における思い出としては素敵に残ってくれるはずである。

お札を数える音が長い払戻機の後ろには、私が最後の客だと伝える警備員がいた。
その日初めてくぐった正門は閉まろうとしていたが、係員や警備員には、なぜか私から「ありがとうございました」とあいさつするほど心は開いたままだった。