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そして、どれも、読めなくなった——。

2019/03/28 17:51 閲覧数(873)
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 西武園競輪場の売り子さんから買った『月刊競輪ダービー』を小脇に抱えた俺は内心得意げに場内を歩いたが、はたの常連客から見れば滑稽だったに違いない。
 昨日の競輪の舞台裏が読める『内外タイムス』は重宝した。わざわざ都内の版元だか印刷所まで買い求めに訪ねたこともあったはずだが、記憶はおぼろである(買いそびれた既刊紙が欲しかったのか)。川上信定氏の連載も愛読した。そのコラムを一ヵ月分だかまとめて再録されたギャンブルの月刊誌を買った記憶があるが今誌名を想い出せない。伊東駅の売店で内外を買って海岸で読んだことがあったなァ――。一泊した小旅館にはなぜかピアノがあって、ベートーヴェンだかバッハの肖像画(学校の音楽室によくあるみたいな)が飾られていた。
 新宿のコマ劇場に隣接するスタンドでよく前夜版の『黒競』を買った。寿司屋でひとりカウンターで初めて握りを食べたのはコマ劇場会館内の店だった。注文した一貫が出されるたびにプラスチック製の楕円の色札が傍に重ねられてゆく。札の数と色で料金が計算できる「明朗会計」は当時としてはめずらしかった。回転寿司などまだなかった時代の話だ。
『夕刊ディリー』が届くのを、三鷹の駅の改札付近のキオスクの傍で、よく煙草を吸いながら(今じゃァ許されない)待っていた。夕刊版のディリー・スポーツは当日の競輪競馬競艇オートの結果を知ることができたし、明日の出走表も載っていた。
『週刊プロスポーツ』を買うとまず、記念競輪や特別競輪の「回顧記事」を探した。伊集院静氏が書いた“プロスポ・サロン”をスクラップしていたが、何度かの引っ越しで遺失してしまった。はじめて降りた駅の売店でプロスポーツ紙を見つけると嬉しくなった。競輪の旅打ちでも只の旅先でも、見知らぬ土地で「最新号」を手にした時の幸福感を憶えている。そのプロスポーツも紙の媒体としては廃刊だという。「月刊ダービー」「内外」「黒競」「夕刊ディリー」もすでになく、どれも読めなくなって、平成も終る――。
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