先日、近所の道を歩いておったら、アスファルトの路面にあお向けになっているせみを見つけた。生涯を終えた亡きがらなりとすっかり思い込み、膝をおり祈りをささげたら、突然ばたばたと動いたのでびっくりした。寝がえりをうたしてあげよう。といってもおれはせみを触れないから、鞄から取り出した紙片を使いすくってひっくり返そう。おそるおそる近づいた。と、せみがすばしこい動きでいきなり飛び去ったのだから更におどろいた。まだ元気だったのか、最後の死力をふりしぼったのか。
子供のころから昆虫は苦手だった。でもカブトとクワガタは男子小学生の必須アイテムだったから、がんばって手にとり扱ったものだ
せみが「生き返って」から三十分後、自宅にもどるやいなやおれは、この夏一番ともいえるせみの鳴き声を耳にすることになる。いやいや凄い鳴き方だなあと感心していると、うん? 自室の網戸にとまっているせみのすがたが目にはいった。至近距離ゆえの「轟音」だったわけね。
それでもおれは――さっきからの一連のせみ騒ぎに――いのち、みじかし、せみたちの性急さに――何事かをけしかけられているような気がした。ディランの佳曲『せみの鳴く日』(アルバム「ニュー・モーニング収録)が無性に聴きたくなった。
だからGⅢ優勝戦の「ころがし」を思いたった。と記せば、おまえは馬鹿か? と浴びせられそうだが、そう至るに針の先一寸の影響はあったかもしれない、せみからの。
五打席連続本塁打の報を知ったとき、大した記録だと感心はした。でも王貞治は四打席どまりだけどひと試合での記録だ。GⅢのころがしを成功させた人は数多いることだろう。が、日をまたがないGⅢ決勝ころがしこそ価値がある。愚者の「脳波」は愚者にもわからない。
一発目、岸和田GⅢ。「二対二対二対二対一」の五分戦、並びを見たせつな「チートイツ単騎待ち」が頭に浮かんだが、まるきり違うよね、書かなきゃよかった。よくもここまでわかれたもんだ。ま、FⅠの決勝みたいな九人(失礼ご容赦)で一等賞三百五十万なのだから、義理固く三番手など回らないのは至極まっとう。
まず絞ろう。一番近しいセットは大阪-大阪(地元-地元)の土生敦弘-南修二で……すこし遠いセットは熊本-岐阜で並ぶ松岡辰泰-山口泰正か……うん、山勘で、遠近の両セットにしましょう。山勘とか言いながらしっかり「売れ筋」の南や松岡を選んでいるところが情けない。土生は引っぱり役の可能性も大なりなので……南、松岡、山口のボックスだと六点、絞るならやはり南の優勝か松岡の優勝で二点、更に絞れと言われれば――誰にも言われてないけど――松岡の「センス」に賭ける②①③かしら。
二発目、函館GⅢ。昼間の岸和田とはうってかわり、でんと北五人結束が目立つ。が、おれの中で今回目だっているのは松川高大と嵯峨昇喜郎だけだ。川口公太朗の中割りは鮮やかだったけど――ツーストライクを取るのに最高の決め球を使ってしまい、もう投げる球がない投手のように――準決で全部「使い果たした」態にも思える。
おそらく北のブン回しだろうから、目だっている二人の表裏を買うのは相当の無理が要るけど、「えいや」の③⑨と⑨③で「いいや」。
附記。そういえば教室での所持品検査のとき、筆箱にクワガタとカブトムシしか入っておらず先生にどやされたE君は、いったいどんな爺さんになっているのだろう。
仮に、万が一、百万が一、おれの転がしが成功しちゃって、金が幾らか増えたとしても、E君の「筆箱」にはまるきり敵わない。
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