戸田競艇場は三四年ぶり、いやそれ以上か。なによりモーター音響く競艇場で一二年アソんでいない。駐車場に車を入れ西門まで徒歩約五分。途中の橋からピットが見え気分が浮きたつ。自転車とバイクが置かれた駐輪場を抜け、門をくぐる頃には、足どりが若干早くなっていた。
まずは真っ直ぐどんどん行って一つ階をおりる(西門は二階部分に位置している)。おもてに出ると大時計附近だ。居る居る居る……、ちと怪しくも充分カッコいい、ギャンブル党・競艇派の面々が歩いている、座っている、ブツブツ呟いている。
来たなぁ――。愉しいなぁ――。
ひとレース終わるごとに電光掲示板には「5」「3」「4」とか「1」「2」「3」とか……もちろん競艇だから一から六までの数字しかないのだが、此方がはずれどもはずれども、彼方はなにごともなかったように、パッと機械的に――機械だからあたりまえだが――確定板を点す。選んだ数字から若干ずれた三つの数字を茫っと見ながら、サイコロの目で表示したら面白かろうにと馬鹿なことを考えた。
薄日が射すベンチに座りながら、阿佐田哲也著『新麻雀放浪記 申年生まれのフレンズ』の冒頭編「食欲」、その第五章六章に描かれる競艇場の景をおもった(――文庫本持ってくればよかったな)。「申年生まれのフレンド」坊や哲とヒヨッ子の二人が行ったのは平和島競艇場で、ヒヨッ子が見事な勝負勘を発揮して大勝するのだが、そのギャンブルにアヤをつけるというか、厳しく採点する坊や哲と、納得しかねるヒヨッ子の会話は秀逸である。
大女優の岸惠子と同姓同名(岸惠子・徳島・七三期)じゃないの!
ヒヨッ子なみにいい勘だったが、如何せん舟券の買い方がちぐはぐで、結局は負けた。
一階から三階、三階から二階、競艇場は施設がひろいから足がくたびれる(頼まれもしないのにウロウロするからだが、昇りのエスカレーターに較べ下りがすくない気がするのは私の錯覚か)。
岸惠子の頭で小躍りしかかったんだけど、むむぅ……。
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