あれは小学校何年の頃だろう、男子生徒のあいだで一升瓶の蓋を使った「おはじき」が猛烈に流行ったことがあった。ローカル・ルールが種々あったようだが、我らのは教室の机(雑なニス塗りで目の粗い木製だ)を戦場に、弾き出されたほうが負け、酒蓋を取り上げられてしまう。
瞬く間に近辺の酒屋から空き瓶の蓋だけが消えた。クラス内では酒蓋を持てる者と持たざる者とにわかれ、零細者同士の「株式会社」なども登場したりして、寝ても覚めても酒蓋という一大フィーバーであった。
俺は五六個でしのいでいたのだが、或る晩、親父が何かの伝手で貰ってきたのだろう、大量(百以上はあった)の酒蓋を俺にくれたのだ。最強と重宝がられる銘柄(「大関」だったか「黄桜」だったか) も多数混じっており、俺は有頂天になった。
翌日、一転「大企業」となった俺は得意満面で登校したものだ。酒蓋ブームの顛末は憶えていないが、大量所持者となった俺からは瞭かにハングリー精神が薄れ、「わざ負け」なンて愚行をしだした記憶もあるなァ――。
もし宝くじが「当たってしまった」としたら、車券も馬券も舟券も気の抜けた遊びになってしまうのだろう。
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