朝の公園のベンチでコンビニの珈琲を飲んでいると時折聞こえてくるのは椅子二つむこうに座る男のラジオの音だ。
映画『アフリカの光』の冒頭、羅臼の海辺を歩いている萩原健一と田中邦衛のどちらかが、中型のラジオを片手で抱えあげ、耳の傍まで持ってゆき聞いている場面を憶えている。萩原も田中もドカジャンを着ていたはずで、公園の男も毎日ドカジャンすがただから、俺はなんだか嬉しくなる。
二三年前、後楽園のウインズで床に敷いた新聞紙の上に座る男の耳にイヤフォンが挿されていた。上着の胸ポケットに小型の短波ラジオでもあるのだろう。襟の傍から伸びるコードに、――お主、やるなぁ。と俺は胸奥で呟いた。
四十数年前の競馬場には大型のオーロラ・ビジョンなどなかったから、掲示板に映し出される「見えない向こう正面」の各馬の位置――〈5・11・6・7・8〉というふうな先頭集団の馬番――と、短波放送の実況だけが頼りだった。表示の馬番が入れ替わるだけで歓声がおこったものだ。
昨秋の川口オートレース場。俺の近くの男二人がスマートフォンで競馬の実況を見、騒いでいた。楽しそうだった。ギャンブル場で他種目のギャンブルを簡単に見られる時代が来るなんて夢にもおもわなかった。オートレース場で競馬を見る。競艇場で競輪を見る。競輪場で競馬を見る。行為の好悪は別として、アソびのボルテージは上がる。
あたりまえのような博打場の光景が又お預けになった――。世界中それどころじゃない今、お叱りを覚悟の愚かなる一人言だ。
♪Woo 授業をさぼって/陽のあたる場所にいたんだよ/寝ころんでたのさ屋上で/たばこのけむりとても青くて/内ポケットにいつも/トランジスタ・ラジオ/彼女教科書ひろげてるとき/ホットなナンバー空にとけてった/あぁこんな気持/うまく言えたことがない/ない/ベイエリアから/リバプールから/このアンテナがキャッチしたナンバー/彼女教科書ひろげてるとき/ホットなメッセージ/空にとけてった――とキヨシローが歌うのはRCサクセションの『トランジスタ・ラジオ』だ。
中三の技術科(当時は男子「技術科」、女子「家庭科」に分けられていた)の授業で簡易ラジオを製作した。二十数人の男子生徒の内俺を含めた三名が完成に至らず先生に助力を願い、二名のラジオはほどなく無事鳴ったのだが、半田付けがあまりに酷いと呆れられた残り一個のラジオは俺の提出したものだった。
簡単なラジオもまともに作れなかった人間が、六十数年何とか喰えているのはツキ一本。車券や舟券や馬券に使うツキなど残っていなくてあたりまえである。
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