五回二死走者なしから四球を選んだ大谷翔平が一塁に歩き着くと、一塁手のカブレラが投球の身ぶりをしながら話しかけ、大谷は笑顔でなにごとか返した。
それから大谷は大好きな盗塁を三度仕かけた。二度はファールで三度目は打者三振でチェンジ。ファールで引き返してくる大谷にカブレラが又冗談口(あくまで表情からの想像です)をとばしていた。
ちと状況はちがうが、昔、二死ランナー一塁、ボールカウント・ツー・スリーの場面、走者の王貞治が投球と同時に二度三度四度とスタートを切るのだが、打者の長嶋茂雄がことごとくファールを打ち仕切り直しという映像を憶えている。生真面目に走る王選手がお疲れ気味に帰塁する様子がなんとも可笑しかった。
野球劇画『巨人の星』の一幕。マウンド上にはやっとのことで復活した星飛雄馬が居る。その姿をベンチから見ながらライバルの花形満が胸奥でつぶやく。〈星君。今すぐにでも祝福しにそこまで行って抱きしめたいぐらいだが、グランドに敵味方として立っている以上、そんなことはできない〉正確ではないがそんな趣旨だったと記憶する。
当時のプロ野球で闘う選手同士が試合中に談笑するなどほとんどなかったようにおもう。
私が見始めたころの競輪にも、レースが終わり引きあげてくる選手同士がバンク内で喋っている景など稀有であった。
時代は流れ、野球も競輪も、グランドでバンクで選手が談笑している場面はあたりまえになった。
正直に申せば、連携失敗の選手がバンク上でなにやらことばを交わしていると、反省会なら控え室でやってくれともおもうし、敵味方だった選手がゴールした途端に喋っていたりするのも気に染まない私だが、大谷とカブレラの交歓談笑には惹かれるわけだから、競輪だって歓迎しなきゃいかんのだろう。だけども初老の固陋は変わるまい。
附記。高松宮記念杯競輪二日目、兄弟ともに失格帰郷の憂き目に遭った芦澤大輔、辰弘は帰途なにを喋る(一緒かどうかも定かではないけど)。失格はけっして褒められないが、荒っぽいファイターの男兄弟を立て続けに見、ニヤリと微笑する私は嫌な奴であるか。
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