ブログ

最後の万札に手を付ける~雀荘の場面

2021/01/20 15:43 閲覧数(462)
このブログを違反通報します
違反通報のフォーム画面へ移動します。
 二車単で百円ずつ流して残りの二百円はどうしましょう……?
 四-七の二車単だと一万二千円もつきますよぉ――!
 これこそ夢の車券ですね――。やたら笑う女性が楽しそうに喋っていた。
 もし最後の万札に手を付けようとする刹那こんな馬鹿馬鹿しい放送に出くわしたら、ごみ箱蹴るぜ! な~ンてそんな元気も短気も残っていない。
 せめて、四-五-七で五千五百万円もつきますよぉ――! なら夢車券でも構わないけど……と馬鹿なことを吐く俺の品性も貧しい。
 あり得ないが万が一もし、四-八を五万買えば百万になります。取り返しましょうよ○○さん――! 放送室の男女からそんなやりとりが放たれたら、俺はちゃんと笑えるだろうか。
 考えてみるに、最後の万札に手を付ける・最後の万札をくずすなる行為も必要ない時代になった。内ぶところに万札よりカード一枚、小銭を持たないキャッシュレス……。世界を覆うコロナ禍に於いてもてはやされる「非接触」に有効なのは百も承知だし、現金を持たない便利さを俺も享受してはいるが、これでもかと爪先ほどの便利を競いあう宣伝が流され、将来の一大事のように諭されるとシラけてしまう。 
 時折、おもいだしたように松田優作主演の『最も危険な遊戯』を観たくなり、DVDを引っ張り出し観賞するのだが、全編見るのは稀で、冒頭の雀荘の場面目当ての場合がほとんどだ。
 優作、内田裕也、石橋蓮司、柴田恭兵ともう一人、五人の役者が雀卓を囲む(一人は抜け番で「カモ」である内田の後ろに張り付いている)場景は不穏で暗く煙たい。内田と柴田のファッションがクールだ。内田の背広の胸ポケットには何枚かの細長く折られた万札が挿されている。あまりに格好良いのでよく千円札で真似したものだ。
 昔の競輪場にはこの雀荘のような匂いが漂っていた。と懐かしんでも、それがどうした? と返されるのが落ちだろう。
 立川駅からちょっと離れた裏通りに現役の競輪選手がやっている雀荘があってたまに遊んだ。徹マンになることもしばしばで、店主はレジの奥で仮眠していた。夜が明けお開きになり皆が始発目がけて駅にむかう時、店を閉めた店主兼選手はレーサーに跨り街道練習に出かけたっけ。
 約三十年前の朝方の景色の記憶はモノクロである――。

  • 読者になる

現在、コメントの投稿を受け付けていません。

TOPへ