秋本番になったら、競馬場に行って、芝生にちょこんと座り、競馬新聞をひろげ、馬券を握りしめながら、半日をすごしたい。
のっけから他種目のはなしで恐縮だが、無性にそんな気分なのである。
友人のSはすくない小遣いをちびちび貯め、いくらかになると、競馬の重賞レースの単勝一本で勝負するという。現在病気療養中のSがもどってきたら、一緒に観戦するのもいいだろう。
むかしの競輪は単勝も複勝も売っていたけど(隅っこの売場で細々とではあるが)、冗談で買ったことあったかなァ……。
ギャンブルに手を染めてから四十年以上たつが、馬券は単勝、競輪は表裏どっちかに、えいやッと絞り、ガマン! 差せ! 俺の根っこはまるで変わっていない、というか成長率ゼロである。
【共同通信社杯決勝戦】二段駆けのにおいプンプンの「新山響平-新田祐大-守澤太志」に対し、コンビ連携が「郡司浩平-鈴木裕」「平原康多-杉森輝大」、単騎の闘いが「清水裕友」「山口拳矢」の三対二対二対一対一は、単勝・ガマン・差せ血統に属する小生にとっては、けだし難問である。
はなしは横道にそれるが、準決の北津留翼の二車単一番人気には、おどろきはしないが、競輪の浅さ深さ両方を感じ、当今の競輪に於ける、番手捲りの「中毒性」――もちろん冗談です、俺も一員ですから。――におもわず笑ってしまった。佐藤慎太郎に一発でドカされた北津留翼の散るさまが、はかなくも妙にいさぎよく、俺には映った。と、これも冗談ですから、ご寛恕を。
閑話休題――。二次予選の第十二競走は、自動編成番組にもかかわらず、新田祐大-佐藤慎太郎-守澤太志なる女神の配剤。レースは一周ちょっと逃げた新田を佐藤の寸チョン、守澤は三番手で車間を切り気味に援護ののち踏むも、四分の一輪たりない三着だった。
準決の新田祐大は、ぎりぎり終審線をとれなかったけど、一周同然の先行策。大名マーク(ことばが旧いネ)の守澤は四角をまわると、一度、二度と後続を視認、ぐいッと外を差したかに、八分の一輪とどかずの二着だった。(何回も後ろをむく余裕があるなら差せよ!)と、普段ならなる俺だが、駆けてるのは新田だしなァ……むしろ守澤の「流儀」みたいなものに触れた気もして……けっして怒らず……よし、決勝こそ守澤の寸チョンだ! 打たれたように、おもいこんだのでありました。
――先行の新田を差せない守澤が、番手捲りの新田を差せるのかいな! と詰問されたら? えへっへ、えへへへへ。いやぁ……ただただ笑ってごまかすしかない。でも、ほら、今回のテーマはさぁ、単勝、ガマン、差せ、ですから。
新田ァ、いいから番手から出ろゥ! 出た? 出たな。よっし、守澤、頼むぞ。差せよ。差せ、差してくれェ! 数分数十秒、ひとレース分の、つかの間の自由が、俺に訪れる。(♪それで自由になったのかい? と、岡林信康は唄っているけど――。)
附記。首尾よく新田と守澤の一騎打ち展開になったとする。そんな逆境にあっても、ならば三着と、いい意味であきらめのわるい選手は誰だと問われれば、それは平原康多でしょう、と即答します。
★⑤③の二車単と⑤③⑨の三連単を買います。
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